第388話 希望 17

    ◆



 外はすっかり日が傾きかけていた頃。


「これにて議論は終了とする。――皆、お疲れ様」


 お疲れ様でした、と人々が声を重ね、自然と拍手が生まれる。隣の人と拳を合わせる者、疲れたというように天を仰ぐ者、仲良さそうに笑顔で話し合う者――様々な者がいたが、その誰もがへとへとでありながらも満足げな表情を浮かべていた。

 その中で白色に近い明るめの茶髪の五歳くらいの幼き少年――コンテニューも満足そうに笑みを浮かべていた。

 思い通りになった。

 この議論の結論。

 人の痛みを自分が共有する。

 そんな世界を――

 そうクロードに認識させたのだから。


「ねえ」


 と、そこで肩を叩かれた。


「っ!?」


 突然のことで思わず肩を跳ね上がらせてしまったが、すぐに何事か思い当たった。

 そうだった。

 このタイミングであった。

 ――自分から話しかけたのではなかったのだ。

 そう自覚したコンテニューは笑顔を表面に浮かべ、振り返る。


「なあに、クロードさん?」

「君には感謝しなくてはならない。――ありがとう」

「えっ? 何で褒められるの?」

「いずれ分かる。歴史が変わる時、君の名前は栄光に刻まれるだろう」

「んー、よく分からないけど……なんかすごいね」


 ――それは絶対ない。

 ジョン・スミスどころか、コンテニューという名すら、その歴史には刻まれない。


 刻まれる名は――だ。


 だがそれを口にしても意味が分からないだけ。

 今は自分がやるべきこと――を、早急に進めるべきだ。

 コンテニューはそこで何かを思い出したかのように「あ、そうだ!」と口にし、ポケットをごそごそと漁ってとあるモノを取り出し――


「はい、これ。お守り」


 クロードに、赤、青、黄、黒の四つのお守りを手渡した。


「これは……?」

「えっと……赤色のがライトウさんで、青色のがカズマさん、黄色がミューズさんのなんだって。あ、クロードさんは勿論黒だよ」

「そういう意味ではなく……何故、お守りを?」

「えっとね、お守りって人の気持ちが入っているから効果があるんだって」

「いや、だからね、お守りの意味を聞いたのではなくて……」


 言えるわけがないだろう。そこに仕込があるなんて、んだからな。

 そう心でツッコミを入れながら、他に意識が向くように意図的に意味深な言葉を口にしておく。


「絶対に間違えないで、って。あとずっと肌身離さずずっと持っていてね、って。じゃないとまた傷が開くわよ、って。そうお母さんが言っていたんだからそうなんだよ!」

「お母さん……?」

「あっ……これ言っちゃ駄目って言われていたんだった! お、怒られるーっ!」


 と、焦った様子を表に出しながら、逃げるように部屋から出て行った。

 お母さんなんていない。

 だが「傷が開く」という言葉で、あの女医が母親だとあたりを付けるだろう。彼女は否定するだろうが、元々身元不詳なスパイである人間なので、きっと信用されないだろう――と、全てを押し付けた。

 しかしながら少々罪悪感があったので、


「……ごめんなさい」


 と、走り逃げている最中にそう謝罪の言葉を、こっそりと口にしていた。

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