第387話 希望 16

 コンテニューは異能を用いて少年の姿になり、ジョン・スミスという偽名と、適当な国を出身地として表示させていた。

 全てはこの場で意見を口にする為。

 ――自分が知っている言葉を口にする為。


 その甲斐あってか、クロードは先の発言の後に少し考えた仕草を見せると、


「ジョン君、素晴らしい意見だ。ありがとう」

「え? え? 意見?」

「誰だって痛いのは嫌だ。でもそれを相手に与えてしまうのは、きっとその痛みがどれだけ痛いのかを理解していないからだ。……俺もそうだった」


 その言葉に、コンテニューは心の中で安堵した。


 先のアドアニアでの戦で、クロードは負傷した。

 久々の負傷で、重傷だった。

 ずっと無敵だった。

 痛みを知らなかった。

 故にジョン・スミスの――コンテニューの言葉は、クロードに突き刺さったはずだ。


「だから君の意見をベースにこれから議論しよう。――ミューズ」

「了解っす!」


 そこからさまざまに意見は進む。


 ――進む。

 議論が進む。

 ある人が出した意見に、別の人が意見をする。

 活発に話が進む。

 進んだり。

 戻ったり。

 ずれたり。

 それでも少しずつ。

 少しずつ。

 前に進む。

 不毛な議論ではない。

 みんなが意見を出す。

 考える。

 正しい道を探る。


 多くの人種。

 多くの年齢層。


 そんな彼らが、一つのテーマについて議論を交わす。


 この様相が見たかった。

 この様相が欲しかった。


 この様相が――必要だった。


「……よし」


 そう小さくジョン・スミスが――コンテニューが呟いた言葉は、周囲の喧騒に消されて届かなかった。



 誰の耳にも、届かせなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る