第386話 希望 15
◆
とある一室。
広大な会議室のような無機質な部屋でありながら、細長い机を囲む様に並べられており、それはまるで一つの円卓のようになっていた。
そこには多数の人、多様な人種がいた。
茶色の髪をした青年。
褐色の肌の三十代くらいの女性。
白髪の混じった初老の男性。
くりくりとした眼が特徴の男の子。
髭を蓄えた王。
その中にはライトウとカズマ、ミューズ、そして――クロードもいた。
性別も人種も年齢層もかなり幅広い人達が、所狭しとこの部屋に集まって円卓を囲んでおり、誰もが誰しもの顔を見ることが出来ていた。
数として、ざっと五〇人。
「老若男女、人種、思想――色々な人物にここに集まってもらった。言語は共通してアドアニア公用語を話してもらおう。全員、話せるようにはしてあるからな。でも本来は言語すら別な人々だ。共通しているのは『正義の破壊者』、およびウルジス国に賛同している国の人達、という点だけだ。勿論、俺に共感している人を集めたわけじゃないから、中には俺に反感を抱いている人間もいると思う。ここに集められて何をするのか、皆はまだ何も聞いていないだろう。ただ単に呼ばれたからって人がほとんどで、不安に思っている人も多数いるだろう。だが、ただ話をするだけだから使うのは頭だけだ」
大層なことを言っている黒髪の少年を、じっと、コンテニューは見ていた。
――少年の姿で。
「さて、みんなには早速だが議論してもらおう。
議題は――俺が全世界を征服した後にどうすれば全世界が平和になるか、だ」
どうすれば世界が平和になるのか?
コンテニューがやらなくてはいけないのは、この議題の結論を――意図的に導き出すことだ。
そして、世界平和への議論は進む。
クロードが異能で、頭の上にアドアニア公用語で名前と出身地を表示させるというやり方で、お互いの素性が完全に判明させられている場で、意見が出てくる。
クロードが死ねば解決するという者。
ジャスティスを用いればいいという者。
――以前と同じ提案、同じ答え。
故にコンテニューには分かっていた。
この議論は途中で挫折する。
そこが――切り出すタイミングだ。
「さて、他に意見を出す人はいないか? ああ、新しい意見でも、アイディアレベルでの思いつきでも構わないぞ」
「……」
クロードがそう促すが、誰も口を開かない。
再び重苦しい空気が漂い始める。
一秒。
二秒。
五秒。
十秒――
「――ねえねえ、今って何しているの?」
その声は、白色に近い明るめの茶髪の五歳くらいの幼き少年から発声されたモノだった。
彼は隣にいた褐色の肌の女性に邪気の無い様子で問い掛けていた
女性は、少年に声を潜めて説明する。
「えっとね……平和について話しているのよ」
「へいわ―? なにそれー?」
「平和っていうのはね……ああ、どう説明したらいいのかしら? この子の親、平和って言葉について教えていないのかしら……」
褐色の肌の女性は戸惑いながらも、優しい口調で語り掛けてくる。
「つまりえーっと……世界のみんながどうすれば戦わなくてすむのかなー、って考えているのよ」
「なんだー。じゃあ簡単だね」
静まった場の中で鮮明に聞こえるその会話。
誰もが耳を傾けていた。
そして少年は無邪気に言葉を場に投げかけた。
「みんながみんな、他の人に嫌なことをしなきゃいいんだよ。例えば――他の人にやる痛いことを、自分も同じように痛くなったりとかね」
その少年の頭の上に浮かぶ名は、ジョン・スミス。
しかしてその実は――
(さあ、これからするべきことはこれだぞ……クロード)
その中身は――コンテニューであった。
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