第384話 希望 13
◆
「――以上が君が置かれている状況、そして今までの経緯だよ」
コンテニューは全てを紡いだ。
コンテニューとしての真実を。
クロードとしての真実を。
どちらも自分であることも含め、全て聞かせた。
更には、自身の異能も用いた。――クロードとして封印した記憶を解放しただけではあったが。
しかしそれもトリガーとして働いたのだろう。
「……っ……っ……」
マリーの目には徐々に光が戻り、表情にも変化が生じてきた。
そして全てを聞かせた後には、
「そん……な……」
彼女は目を見開き、自分の口を両手で塞いで震えていた。
涙も浮かべている。
その様相はまさしく、自分が知っているマリー・ミュートという人物であった。
「信じられないと思うけれど、これが真実だ。僕が記憶を元に戻した。もう君が記憶を失うことにメリットなど何もないから」
「私は……私がたくさんの人を……」
「……仕方ないんだ。完全に洗脳されていて、抗えなかったのだから」
「そんなの言い訳にならないわ! 操られていようが何だろうが、この手が汚れているのは確かで……疑いようのない事実だわ……」
「思い詰めるな、マリー。君自身は汚れては――」
「そんなのは詭弁よ!」
頭を抱え、マリーは机に突っ伏す。
「私は人を……人を殺してきた……更には、人の命を使って……」
「だからそれは違うって」
「私の所為で……私の……私が……私がいるから――」
「――駄目だ!」
ダン、と。
彼女が突っ伏している机を、コンテニューは強く叩いた。
その衝撃に驚きの表情でマリーは顔を上げる。
「マリー、君は今、死のうと考えたね? 自分が死ねば全てが丸く収まるって。これ以上、『ガーディアン』としての犠牲は無くなる、って」
「……心を読んだの?」
「読まなくても分かるよ。君だもの」
そう、柔らかくコンテニューは微笑む。
瞬間、見間違いでなければマリーの顔が赤らんだ。
その隙にコンテニューは否定の言葉を叩きこむ。
「君がいなくても、きっと誰かがパイロットになって同じことを繰り返す。その手を汚すことになる。それを苦として思わない人がいたらその人によって更に人が殺される。君が死ぬことで、もっともっと人が死ぬ。これは未来の話」
「未来の……」
「それに、過去の話で言えば、仕方ないと割り切ってもらうしかない。そう割り切ってくれないと困る」
「困る……って、何が……?」
「僕が。いや――俺が」
だってさ、とコンテニューは苦笑いをしながらマリーの手を取る。
「そうじゃないと……自らの意思で君よりも多数の人達を殺してきたこちらの精神が持たなくなる」
コンテニューは自らの手で人を殺してきた。
何人も。
何人も。
果てには、母親までその手に掛けた。
その事実を、マリーにも全て話していた。
だから気が付いたのだろう。
自分の考えていたことが、いかに彼にとっては更に大きな形で圧し掛かっているということに。
「……っ、あ、ご、ごめ……ごめんなさい……」
みるみるうちに青ざめていくマリー。
コンテニューは首を横に振る。
「謝らなくていい。だけど自覚してほしい。
君の命は――僕の命とも繋がっているということを」
マリーがその理由で死ぬのであれば、それ以上のことをしているコンテニューも死ななくてはいけない。
そもそも、マリーを生かすために過去に戻って、しかもコンテニューにまでなったのに、彼女が死んだら、ここまで生きてきた大義名分が無くなる。
……勿論、後者は口にしなかったが、マリーには伝わっているだろう。
彼女は少し呆けたように口を開けていたが、やがてハッとして「ごめ……いや、あの、えっと……」と謝ろうとして何を口にしようか戸惑っている様子であったが、
「……………………ありがとう」
(……ああ……)
やっと。
やっと見られた。
ずっと求めていたもの。
このために、ずっと頑張ってきた。
マリーの笑顔。
これを見る為に。
――だけど、ここで終わりではない。
この笑顔を、この場所で見る為に頑張ってきたわけではない。
この先だ。
この先でその笑顔を見る為に、コンテニューはここまで来たのだ。
「……」
コンテニューは深く、長い溜め息を吐く。
そして告げる。
「……なあ、マリー。僕から君に、そして――俺から君に、お願いがあるんだ」
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