第374話 希望 03
◆
「……っ、しまった……っ」
コンテニューはギシリ、と歯を鳴らした。
彼が向かったのはルード本国ではない。
ルード本国からは少し離れた場所である小国――ローレンツ。
その外れにある、とある施設を訪れていた。
いや正確にはライトウの親が経営している施設だった――今は燃えカスとなった場所であった。
即刻、自分の首元に持っていたナイフを突き立てる。
だがそのことによって戻ってくるのは、この場所に付いたその瞬間、その場所であった。
つまり――それ以上はもう戻れないということだった。
「てっきりアリエッタを屈服させたことを映した全世界放送の後だと思ったのに……」
このような焼け跡と化した理由は知っている。
誰がやったのかも知っている。
「――お、珍しいな、お前がここにいるのは」
後ろから声を掛けられる。
振り向いたその先にあったその姿には見覚えがあった。
そして、想像もついていた。
「――ヨモツ元帥」
「げひゃひゃ! 久しぶりだな、コンテニュー」
髪を逆立てた緑髪の男性は年不相応な下品な笑い声を放ってくる。
ヨモツ・サラヒカ。
ルード国、空軍元帥。
そしてここにあった施設を破壊した張本人である。
彼は炭で頬を黒く染めながら、火事場を漁っていた。
「まさか火事場泥棒ですか?」
「げひゃひゃ! バーカ。んなわけねえだろうが」
そう言って指で示す。
「ここはよう、ジャスティスを破壊するってので有名な魔王の母親である魔女が昔訪れた場所らしいってのを聞いてよう、見てみれば孤児院じゃねえか。あんなの量産されたら困るから、ここで処分したんだよ。で、その残りが無いか、捜索中ってわけだ」
「……そんな理由で……」
「ん? どうした?」
「――いえ。何でも」
にこりと笑顔を向ける。
「流石用心深いと評判高いヨモツ元帥ですね。因みにその情報は誰から聞いたのですか?」
「何か前置きが気になるが……まあ、いい。情報源は……あいつだよ。白衣のあいつ」
「ああ、セイレンですか」
「何であんなこと知っているか分かんねえよな。ただ文献と聞き取り調査で事実であったのは間違いねえようだがな」
ヨモツとセイレンが合わない――というよりも、一方的にヨモツがセイレンを嫌っているだけなのだが、それはこの際どうでもいい。
とりあえず事実を確認しよう。
「つまり、魔女の訪れた場所だから破壊したのですね、ヨモツ元帥」
「……んだよ。なんか文句あるか?」
大ありだ――とは言えず「いえ、そうではないですよ」と苦笑いを返す。
「僕も同じ情報をセイレンから……というよりも、セイレン周りの人から聞き出したのですが、先を越されて悔しいなあ、って思っただけです」
「へっ、そうかそうか。残念だったなあ。俺の方が行動力があるからよお」
「ええ、本当に残念です」
ライトウ達の父親や母親、弟、その他の施設の子供達。
彼らを守ることが出来なくて。
正直な話、彼らを救い出すことはコンテニューにとっては望みではない。
ただ、最善を尽くしたかっただけなのだ。
そして、その最善が尽くせなかったという事実。
クロードの悪名が本格的に広がった後に行われた――という思い込みだけで、引き返せなくなった。
そのことが、コンテニューの胸にハッキリと残った。
失敗は出来ない。
取り戻せない。
そして――全員を助けられると思うな。
何度も確認した考えを身を持って否定という形で体感し、彼はより一層、自身の目的達成のために事象を割り切った。
割り切ったついでに、ヨモツの首を隠したナイフで搔き切った。
当然、過去に戻された。
施設を訪れたその瞬間に。
「……ごめんなさい」
一回だけ。
そう小さく謝罪の言葉を口にして、彼は踵を返して、ローレンツ国を後にし、ルード本国へと足を向けた。
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