希望
第372話 希望 01
◆
アドアニア国。
正史ではルード国の開発したジャスティスによって被害を受けた、最初の国である。
しかしながらそこからルード国の技術的な支援を受け、瞬く間に工業的な発展を遂げ、人々の生活は豊かになった。
今まではウルジス国の庇護下にあった国だが、今は完全にルード国の支配下にある国である。
故に、軍事基地も配備された。
その軍事基地に上層部の一員として名を連ねていたのが、中将であるコンテニューであった。
従来、中将という立場であれば第一線に出ることもなく他国の支部長の椅子に座っているものなのだが、彼はその道に進む気は全くと言っていいほど無かった。本当は中将にすらなるつもりなどなかったのだ。出世には当然興味なかったし、拒否してもセイレン、更にはキングスレイと強力な存在と知己である為、不本意ながらも懇意にしていると思われ、彼は自由に動くことが出来ていた。
しかし、そんな背後にいる存在など無視した人事を無理矢理敢行した人物が一人。
アリエッタ。
大統領の娘でありながら権力を笠に着ず、元帥の地位まで上り詰めた女性。
彼女は武功を上げているコンテニューに目を付け、評価し、役職を付けた。
何故か彼女経由の辞令には拒否権が出来なかった。
最初の命令は、アドアニア支部付けの中将になることだった。アドアニアには、ただでさえ会う訳にはいかない人物が多いから嫌だったのだが、ありとあらゆる手段を講じても拒否することが出来なかった。どうやら後に陸軍元帥になる為には避けて通れない道らしい。
基地内に籠っていたり出張中ということにして戦場に向かっていたことが多くしていた。
そんな中、たまたまアドアニアに帰還した際に、唐突に来ては式典の準備をしろだのと無茶ぶりが来たので無視をしたら、勝手に評価がまた上がって、勝手にアドアニアの支部長にさせられていた。
全く持って不本意である。
そんな不本意な状況の中、唯一の救い――というよりも、コンテニューとして唯一、心を少々許していた存在が、アドアニアに赴任となっていたのだった。
ジェラス大佐。
彼がいるかいないかで、きっとコンテニューの精神は大きく異なっていただろう。
故にコンテニューは、こう思っていた。
ルード国の人間で唯一、生きていてほしい存在だ、と。
彼はアドアニア襲撃に関わっていない。そして意図的か否か不明だが、クロードの家――魔女の家と呼ばれていた場所に付いて、温い対応をしていた。もっとも、この時点では既にクロードは魔王として覚醒し、その家は燃えて無くなっているのだが。
しかしながら、クロードが復讐心を抱えながらも自分の家で暮らせていたのは、ある意味彼のおかげともいえよう。
それ以外でもコンテニューとして、ジェラスは面倒を見てくれた。
そのくせ、残虐な思想も無く、ルード国に復讐したいという思いを否定せず、また肯定せず、自己の力を付けるように鍛錬してくれた。
身体も。
心も。
だから、彼は生きていてほしい。
贅沢な望みだ。
だけどもそれがコンテニューの願いだ。
(……まずはここからだ)
ルード軍基地、とある廊下。
そこでコンテニューは大きく深呼吸する。
ここから行うこと。
まずはジェラスに行うこと。
この結果次第で、全てが変わる。
(ここから――始まる)
ミスは出来ない。
完璧に。
完全に。
自分が何度も何度も考えてきたシナリオをなぞらせるのだ。
出来なくてもいい、という考えはない。
戻ればいいなんて考えはない。
『人生は一度しかない。だから必死に生きなさい』
母親の言葉。
七年前、教えられた言葉。
一度しかない。
人生は一度しかないのだ。
だから必死に生きろ。
必死に生きて――生きさせろ。
人生は一度しかないのだ。
僕以外は。
いや、違う。
僕だって――そうなのだ。
やらなくてはいけないのだ。
僕は、必ずやり遂げないといけない。
もう戻れない。
戻させない。
ここから過去の出来事をなぞって――結果を変える。
「……しくじるなよ」
クロードの時には思いつかなかった心憎いこの計画を、自分の心に杭を打ち。
僕は前に一歩進んだ。
「あ、どうも。ジェラス大佐」
ゆったりとした声で、コンテニューは笑顔でジェラス大佐に話し掛けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます