エピローグ
第337話 エピローグ 01
◆クロード
「……………………………………え?」
クロード・ディエルは呆然としていた。
目の前に突如現れた緑色のジャスティス。
その特徴的な見た目から、カズマが苦しめられ、自身もアドアニアで短い間対峙した、気己型ジャスティスであることは瞬時に判断出来た。
あの機動力は厄介だ。
だから相手が行動に移る前に、即座にこちらから攻撃を仕掛けた。
――破壊。
相手のジャスティスをすぐさま破壊した。
いつもの如く、クッキーのように脆い外壁に変化させ、胴体に攻撃を与えて崩れさせた。
これで完全に機能を停止し、ジャスティスは動かなくなる。
そしてパイロットも死ぬ。
その未来が定まったその瞬間――
『……ごめんね、クロード……』
目の前のジャスティスから聞こえた声。
聞き覚えのある――いや、昔に毎日のように耳にしていた声。
最近は全く聞いていなかった声。
ずっと聞いていたかった声。
もう二度と聞くことが出来ないと思った声。
幻聴じゃない。
むしろ幻聴であることを祈りたかった。
「っ!!」
クロードは瞬時に駆け寄り、崩れ落ちたジャスティスのコクピットをこじ開けた。
そこにいたのは、彼女の肉声を録音したモノをただ流して油断を誘った、どこかの誰か――
――であったら良かったのに、と本気で思った。
しかし、現実は残酷だった。
紛れもなくそこにいたのは、先程声を発した張本人だった。
「嘘だ……」
美しい紅の髪。
整った容姿。
散々、見てきた顔。
――今はもう、見れないと思っていた顔。
「嘘だ……嘘だよ……何で……何でこんな所に……」
信じられなかった。
目を潰せば偽りになるだろうか?
――そんなことを考えてしまう程に、目の前の光景を受け入れることが出来なかった。
「……マリー」
マリー・ミュート。
クロードが大切に想って、大切に守ってきた存在。
ルード国にいること、ましてやジャスティスのパイロットとは縁遠い存在であるはずであった。
「なあ……有り得ないだろ……? 有り得ないって……嘘だって言ってくれないか……?」
呆然自失としたまま、彼は彼女を揺さぶる。
――既に冷たく、動かなくなっていた彼女を。
「じょ、冗談、だよな……だったら俺は何のために……? マリーが幸せに……それが俺がジャスティスを破壊して……この手で破壊して……この、手で……俺が………………ころ、した?」
――その瞬間。
クロードの中で何かが折れる音がした。
自分を支えていた支柱の一つ。
絶対に折れることが無いと思っていた、奥の方で密かに支えていた存在。
それがぽっきりと折れた。
壊れた。
「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!」
笑った。
狂い笑った。
今まで笑えなかったのが嘘だと思うくらいに笑った。
止められなかった。
愚かな自分を笑った。
完全にタガが外れた。
そんな狂っている最中ではあったが――クロードは気が付いた。
笑っている自分と、そこからある事実に気が付いた自分の二人がいるような、そんな分離しているような錯覚に陥りながらも、後者のクロードは理解した。
笑うという行為。
それはずっとクロードが出来ないと思っていた。
だけども、実際に今は出来ている。
何があったのか?
それは――思い込みだ。
ずっと笑えないと思い込んでいた。
出来ないと思い込んでいた。
『五メートル先のモノを変化させる能力』というとんでもないモノが発現したと同時に、無意識に制限していたのだ。
能力の代償に、笑うことが出来なくなった、と。
そういう代償があるから、能力にも出来ないことがある。
そう決めつけていたのだ。
それはきっと、彼自身が自分の能力について恐れを抱いていたからだろう。
無制限に使える能力を持つことに。
だから出来ないと決めつけ、安心していたのだ。
――自分はまだ人間だ、と。
本当は怖かったのだ。
人とは違うこと。
人よりも突出していること。
本当の自分は臆病で、何かと理由を付けて逃げをしている。
能力だって、際限の無さに対しての恐怖を、制限があると思い込んで逃げた。
ジャスティスの破壊だって、一人でやればいいモノの、効率化やその後の処理などを言い訳にして逃げた。
自分が逃げる為――楽をする為に、自身で制限を掛けてしまったのだ。
だから壊れた時、きちんと笑えているのだ。
澱みなく笑えているのだ。
結果。
そういう制限をした結果が、目の前だ。
救いたかった人物を、よりにもよって自分の手で殺してしまった。
破壊してしまった。
どうしてこうなった?
こうなってしまったのは何故だ?
この能力をもっとうまく利用していれば、こんなことにならなかったのでは?
失った命を取り戻すことも出来るのでは?
――いや、でもそれは主観が入って、その人そのものにならない。
主観が入るというが、それこそが自分の思い込みでは?
――そうではない。主観が入ること自体はこの能力の必然的なものだ。先の笑えないと思い込んでいた件も結果的には自分の主観が問題だったと言える。
じゃあどうすればいいんだ?
――こっちが訊きたい。
自分の未熟さに吐き気すら催してきた。
今までの自分は何と愚かだったのか。
きっと全ての望みを叶えることが出来た。
出来なかったのは、自身の技量だ。
自分じゃ無理だ。
もし、クロードが制限をしていなかったらこんなことにならなかったかもしれないのに。
そう。
クロード以外の人物が能力を持っていたら、こんなことにはならなかったかもしれない――
――僕を信じろ!
その時。
クロードの内部に、まるで雷が落ちたかのような衝撃が走った。
表面上は未だに笑い声を上げ続けている。
だけども内心の――その一部の中では、とんでもない考えに辿り着いた。
クロードは諦めた。
自身がやってしまったこと、出来なかったこと。
今更後悔しても変わることは無い。
だけども――それが出来る存在がいる。
それが出来ると口にしていた存在がいた。
『――クロード・ディエルが諦めている望み。
その望みを――僕は全て掴み取って見せる!』
『だから僕を信じろ!
僕はお前の望みを全て叶えることが出来ている存在だ!』
今思い返せば、彼はそのようなことを想起させることを口にしていた。
意図不明だと思っていた言動が、これでようやく繋がった。
出来る。
出来るのだ。
思い込みを食い破れない自分であったが、実例があるなら別だ。
彼が実例だということを信じればいいのだ。
出来ないことは無い。
だって――現に出来た人間がいたのだから。
だから信じろ!
信じろ!
ひたすらに信じろ!
俺には出来る!
やるしかないんだ!
他人の幸せなんて気にしている余裕はない。
今はただ、求めているのはただ一つ。
『だけどそれでも僕は――他人の幸せを踏みにじってでも――身近な人の幸せ、果ては自分の幸せを求め続けます』
あいつは言っていた。
この言葉が、俺が求めていることだ。
今なんてどうだっていい。
この今が崩れたっていい。
今の今まで、出来ないと思っていたこと。
思いつきもしなかったこと。
だけど今は本心から思っている。
『ああすればよかった。こうすればよかった。助けられる人を助けられなかった。こんなはずじゃなかった――そんな後悔をどうにかしようと生きているのが僕ですよ。むしろそんな後悔から生まれたと言っても過言ではありません』
だからこそやるんだ。
やれるんだ!
やらなくてはいけないんだ!
例え――クロード・ディエルの未来を踏みにじってでも!
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」
クロードは願った。
例え
――
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