第338話 エピローグ 02

    ◆




「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」



 戦場のど真ん中で――その人物は生まれた。


 産声ではない。

 絶望に叫んだ――絶叫ではあった。

 だが間違いなく、この場に誕生した瞬間だった。


 涙が出ているのか。

 ――泣きたくなるようなことがあったから。


 どうして叫んでいるのだろう。

 ――自身を奮い立たせる為。


 何故ここにいるのだろう。

 ――自身が望んだから。


 やがて、どれくらい叫んだのだろうか。


「……そういう、ことか」


 頭もスッキリし、思考も落ち着いてきた所で彼は呟く。


 ――彼は理解していた。

 自身が先程までいた場所とは全く異なっている。

 ルード国首都カーヴァンクルの光景ではなく、目の前にいたマリーの姿もない。

 ならば成功したということだ。



 自身が望んだ――

 



 先程まで整理が付いていなかったので慟哭しっぱなしで意識はしていなかったが、その間、銃撃や砲撃がそこら中で飛び交っていた。その中で命を落としていないのは幸運だったなと今更ながらに感嘆する。


「何もしていなかったからな、僕は。……いや……僕? ……俺? ……まあ、いいや。僕にしておこうか。いや――しておきましょうか」


 と、そこで近くに落ちていた割れた鏡が目に入った。

 その反射により、自分の姿を認識する。

 無理矢理認識する。

 そして自覚する。

 自分は十台前半の少年であるということを。

 そして、その容姿には特徴があるということを。


 金色。

 碧眼。


 記憶に刻みつけた特徴がそのまま若くなった少年の姿がそこにあった。


 そんな容姿についても、自分のものじゃないように感じていた。

 ――無理もない。一七年間ずっと共にあった容姿ではないのだから。


 少年には、自分の目に映っている自分が他人のように見えていた。

 ――無理もない。ついこの間まで他人であったのだから。


 加えて、この少年が何故こんな戦場のど真ん中という場所にいるのかも全く分からなかった。

 ――元々存在していた少年に乗り移ったのか? はたまた新しくこの場に誕生したのか?

 それらは不明だが、いずれにしろ自分としては、この戦場で『生まれた』のは間違いない。


 故に『生まれた』と表現したのだ。

 だが、覚えていることもいくつかある。

 名前だって憶えていた。


 ――元の名前であるクロード・ディエルという名も、勿論。

 だけども、既に自分はその名前は捨てた。

 今の自分の名は――



「――コンテニュー」



 ウルジス語で『続く』という意味の言葉。

 それが少年の名前。



 ――ということから付けられた名であった。






                        六章  完

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