第329話 ライトウ 08
最初は目の前の光景について信じられなかった。
弾かれた方向について目線を移動させてしまっただけだったのに。
その目に映ったのは、振り下ろしたにも関わらずに上方向に浮いてきている、自身の右腕だった。
右腕だけが持ち上げられている理由も視認できた。
キングスレイ。
真横から剣を当てて軌道を逸らした彼は、反発した勢いで残った剣を上に振り上げたのだ。その攻撃は弾かれて開いてしまったライトウの右肩に入り込み、斬り飛ばした。
そこまで一瞬で理解した。
理解出来てしまった。
まるで他人事のように。
(――俺の負けなのか……?)
興奮状態の為なのか、痛みはない。
実感もない。
だけど現実として、ライトウの右腕は自分から斬り離されている。
何だか意識も遠くなってきた。
結局。
重きを置いた一撃は防がれてしまった。
それだけは事実だ。
防がれてしまって、これ以上の攻撃は出来ない。
だから自分の負け――
と、目を閉じそうになった――その時だった。
「!!」
ライトウは気が付いた。
目の端に移っていた、ある光景を。
自分の右腕。
飛来しそうになっている右腕。
その右腕が――しっかりと刀を握っていることを。
――まだ俺は負けちゃいない。
そう右腕が伝えてきたような気がした。
自分の腕なのに。
自分の腕だったのに。
だからこそ、それは自分の意志なのだ――とライトウは思い直す。
まだ負けていない。
右腕は吹き飛ばされた。
――いや、違う。
吹き飛ばされている――途中、だ。
ライトウはまだ刀を握っている。
つまりはまだ、今、この瞬間には――
刀による攻撃が出来る。
――刹那とも言える数瞬の判断だった。
ライトウは自身の身体を反時計回りに回転させる。
反時計回り。
すなわちそれは――左手が上にあがる、ということだった。
全神経を左手に集中させる。
力も集中させる。
失敗するわけにはいかない。
一度だけ。
一度だけしかないのだから。
必ず掴み取る。
文字通りに――勝機を。
「――あああああああああああっ!!」
雄叫びを上げながら、一回転した彼の左手はしっかりと捉えた。
離さない。
絶対に離さない。
薄れていきそうな意識を覚醒させるかのように歯を食いしばって、何とか左手の中に収める。
そう。
――浮かび上がる途中であった自身の右腕を。
掴んだ右腕。
その先には刀。
回転した勢いも加えて、上部からの叩きつけるような攻撃だ。
その攻撃に、キングスレイも反応が出来なかったようだ。
咄嗟に背部に回避行動をしようとする。
だけども彼は直後――ハッと目を見開く。
先と同じように回避しようとしたのだろう。
だがしかし――ライトウの攻撃は先とは違う。
だからあまりにも避けるまでが遅かった。
間に合わなかった。
ライトウの刀のリーチは――右腕の分だけ増えていたのだから。
きっと予想だにしていなかったのだろう。
まさか自分の右腕を持って斬るとは。
正にその攻撃は、有言実行。
ライトウ自身が刀となっていた。
――その刀がキングスレイに届く直前だった。
叫んでいたから気のせいかもしれない。
意識が途切れそうだから幻聴かもしれない。
それでも。
ライトウは確かに聞いた。
「――見事」
――次の瞬間。
キングスレイの左胸から鮮やかな鮮血の花が咲いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます