第327話 ライトウ 06

 ルード軍中央会議室。

 そのちょうど中央で、二人は激突した。

 その場にあった机も椅子も外側に吹き飛んでいく。

 まるで二人の間には、何事も存在しても無駄だというように。

 ――剣戟は互角。

 ライトウのスピードある斬撃は、キングスレイの柔らかい受け流し方で彼の身体を捉えるまで至っていない。

 一方でキングスレイの攻撃について、ライトウは全身で受け止め、そして押し返していた。

 押し返されたキングスレイは、その勢いのまま身体をくるりと宙返りをする。

 ライトウはすかさず、その背に刀を突き立てる。


 ガキィン!


 ライトウの刀は弾かれる。

 しかしそれはただ防がれただけではない。


 先程ライトウがやってのけたように――刀の先に剣先をぶつけてきたのだ。

 しかも後ろ向きで。


(こいつ……っ!)


 ライトウは歯噛みする。

 先のライトウよりも難しいことを、いとも簡単にやってみせる。

 裏を返せば、そんな余裕をまだ与えてしまっている、ということだ。

 相手は相当な負けず嫌いだ。

 だけど。

 ライトウだって負けてはいない。

 負けず嫌いの度合いだって、負けてはいないのだ。


「はああああああああああああああああ!」


 キングスレイとの距離を一気に詰める。

 狙うは着地するその足。

 狩るように右手だけで刀を振るう。


 キィン!


 またしても阻まれる。

 キングスレイは着地した足の前に剣を置いて防いだ。

 しかもそれだけではない。

 足の裏を剣に当て押し、勢いでライトウの刀を折りに来たのだ。

 手の力と足の力では明らかに差がある。

 だからライトウは交錯した瞬間に刀を引いた。

 だけどただ引くだけではない。

 その引いた力をそのまま遠心力として利用する為に、身体ごと回転させて斬りつける。

 その攻撃を、キングスレイはバックステップで回避する。


 一瞬の出来事。

 それが幾度も繰り返される。


 幾度も剣と刀が交錯し。

 幾度も避け。

 幾度も風を切る音がして。

 幾度も地面を抉る音がして。


 斬る。

 防ぐ。

 斬る。

 避ける。

 斬る。

 防ぐ。

 斬る。

 避ける。

 斬る。防ぐ。斬る。避ける。斬る。防ぐ。斬る。避ける。斬る。防ぐ。斬る。避ける。斬る。防ぐ。斬る。避ける――


 共に凄まじい程に攻撃を繰り出して、防ぎ、避けている。


 しかしながら、お互いの身体は未だ無傷であった。


 相手から来る攻撃が分かる。

 だから避けたり防御出来たりできる。

 ある意味意思疎通している状態だ。

 もし仮にこの場に二人以外の誰かがいたとしたら、きっと即座に切り刻まれていたであろう。

 それ程までに彼らは彼ら自身だけの世界を形成し、二人だけの刀剣の世界に没頭して行く。

 どれくらい経ったのだろうか?

 数秒?

 数分?

 数時間?

 それとも数瞬?

 長くも短くも思える、異様な空間。

 永遠に終わらないかに見えた、剣の交え。

 だけど――



「……え?」


 最初に崩れたのは――ライトウの方であった。

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