第326話 ライトウ 05

「そういうことだ」


 ライトウは満足げに微笑む。

 そう。

 これこそが彼が見つけ出した答え。

 自分自身が一振りの刀となることだった。


「全身全霊を持って、俺はお前を斬る。それが俺の――剣士としての在り方だ」


「……そうか」


 その答えに、キングスレイは深い笑みを返す。

 その笑みには色々と含まれていることがライトウにも読み取れた。

 全てが見えたわけではない。

 だけど一つだけ。

 一つだけ分かったことがあった。


 喜び。


 彼は間違いなくライトウの答えに対して喜んでいる。

 嬉しがっている。

 まるで、自分の望んでいた展開だというように。


「――言葉だけでは何とでも言えるな」


 と。

 そこでキングスレイは静かにもう一度剣を構え直す。

 明確だ。

 彼も本気でこちらに相対してきている。

 そんな様相が伝わってきた。


「そういう殊勝な心がけなのは理解したが、しかしそれで俺が倒せると思ったら大間違いだ」

「……ああ、確かにそうだな。今のままだと、確かにお前の言う通りだ。勝たなくては意味がない」


 ライトウも刀を握る手の力を強くする。

 まるで震えを抑えるように。

 しかし、これは恐怖による震えではない。


(そうか……これが聞いたことがある、所謂――『武者震い』ってやつか)


 武者震い。

 奮起する為に起こる身体の現象。

 先に対峙した時は何もなかったのに。

 改めて剣士としての覚悟を告げたからなのか?

 それとも、相手が本気でこちらに対峙してきていることも理解したからなのか?


(――!)


 ライトウは本能で理解していた。

 ここが最後だ。

 最後で――だ。


 ライトウ。

 キングスレイ。


 必ずどちらかはここで――命尽き果てることを。


「――『サムライ』ライトウ」


 キングスレイがライトウを呼ぶ。

 その声は真剣で。

 低く。

 彼を―― 一人の対等な敵だと認めている声であった。


「君も剣士ならば、どうやって証明するのかは分かるだろう?」

「ああ」


 ライトウは頷きを返す。

 分かっていた。

 分かり切っていた。

 ライトウは剣士だ。

 キングスレイは『剣豪』ではあるが、それでも一人の剣士であることは間違いない。

 だから相手への伝え方が分かる。

 剣士と剣士。


 その会話は――刀剣でのみ成り立つ。



「この俺に見せてみろ。君の――その刀剣君自身で!」


「言われなくても!」



 ――次の瞬間。

 お互いの刀剣が交錯した際に生じた甲高い音が響いた。

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