第306話 決戦 17
◆カズマ
ジャスティスが動かない。
その事態にカズマは大いに焦った。
操縦桿をいくら動かしても、ボタンをいくら押しても、ジャスティスは何も反応しない。
反応しているのはモバイルバッテリーで駆動しているモニターのみである。そこに分割して映し出されていた模造ジャスティスの画面は次々とブラックアウトしていった。
獣型ジャスティスは容赦しない。
何故かあの機体だけは動くことが出来る。
「――ミューズ? ミューズ!?」
耳元にあるインカムで彼女の名を叫ぶように呼びかけるが、彼女からの返答もない。そしてその内、他のジャスティスから音も聞こえなくなった。どうやら通信が妨害されているようだ。
しかしながらきっと通信が生きていたら、更に聞くことになっていただろう。
――模造ジャスティスのパイロットの悲痛な叫び声を。
「……マズいな……」
目の前のメインカメラは切られていないようで、そこからの景色は未だに変わっていない。
だがそこに現れる影に、カズマは恐れを抱いていた。
目の前に緑色の影が見えればそれでおしまいだ。
模造ジャスティスから距離が離れているとはいえ、ジャスティスを撃破しながら移動したので、その残骸を追って行けば辿りつけられてしまうことにも気が付いた。
そうなれば動けない状態で一方的に蹂躙される。
ならばどうする。
(……離脱するか?)
このジャスティスには、離脱機構が付いている。これはクロードがコンテニューとアドアニアで対峙した際、破壊される前に上部に射出される――距離を離す――ことで命を吸い取られないように出来たことを知ったために、ミューズに提案して作らせたものであった。
これを行えば命は助かる。
自分の命だけは。
(――駄目だ)
カズマはすぐに首を横に振る。
脱出機構はコクピットごと上部に排出する構造の為、一度使用したら再度ジャスティスを操作することが出来なくなってしまう。
(そうなれば守ることが出来ない。――ミューズを)
カズマが撃破されれば、その先にいるのはミューズだ。
ライトウもいるとはいえ、彼は恐らくはキングスレイと対峙しているだろうから共にはいないだろう――とあたりを付けていたカズマは、無防備に晒されているであろう彼女を想った。
想って、思った。
「……ミューズなら……」
ジャスティスが急に動かなくなったのは敵が何かをしたからなのは間違いがない。その何かについて対処できるのは、きっと通信や情報網などのソフトウェアの面で特化した能力を持っているミューズだけだろう。同時に通信が途絶したことからも、その考えは間違ったものではないことは内心確信していた。
だからこう思った。
――ミューズなら何とかしてくれるのではないか?
丸投げの頼り切りの案になってしまうが、実質、彼が出来るのは信じることだけだった。
期待から降りることは出来ない。
逃げることは出来ない。
ただじっと、祈ることしか出来ない。
緑色のジャスティスがこの場所を見つけないことを。
ミューズがこの拘束状態を解除してくれることを。
人任せのお祈り。
神頼り。
だが、カズマは知るべきであったのだ。
自分達が今までいかに辛かったのかを。
――神などいないということを。
直後。
祈りも虚しく。
カズマの視界には緑色のジャスティスの姿が映し出されていた。
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