第297話 決戦 08

   ◆正門付近――カーヴァンクル内



 一方。

 ライトウとカズマを先頭とする『正義の破壊者』は正門を抜け、一直線に市街中央部へと向かっていた。勿論、全員が真正面を突き抜けているわけではなく、一部の所属員――主に歩兵ではあるが――は左右に広がり、赤い液体を用いて制圧に当たっている。

 首都カーヴァンクルはビルが立ち並んだ近代都市て道路も整備されており、現在はその車道のど真ん中を駆け抜けている状況である。印象としてはアドアニア都市部と近いが、それは元々がルード国が作り上げた近代都市であるから当然ではあるのだ。

 正門を抜けた直後は攻撃や罠など何もなかったが、街の中心部に近づくにつれて攻撃――というよりも迎撃が発生してきた。大抵は前方のカズマのジャスティス、中盤のウルジス国作成のジャスティス模造品、最後部に位置する補給用のもう一機のジャスティス――会議の時に名を知らしめたピエール・オパメが乗る機体――が、それぞれ攻撃を弾いているので被害はほとんどなかった。

 そして真正面の敵は、ライトウがあっという間に斬り捨てていた。そのスピードはミューズを背負っているにも関わらず以前よりも格段に上がっており、ジャスティスでも最高速ではないと置いていかれる程の速さであると。


 ――ライトウは成長している。

 カズマは間近で見て実感していた。


 そしてその速さは――早さは異常である、と。


「なあカズマ?」


 ライトウが話し掛けてくる。少々息が荒いが、全速力で走っている中でその程度なのはやはり異常だ。


『どうしたの?』

「軍本部っていうのはまだなのか?」

『まだ見えてこないけど、心配しなくても真っ直ぐ進めばもうすぐだと思うよ。カーヴァンクルの本当に中央部に軍本部があるっていうのは間違いないから』

「そうか。……いや、なに、ミューズがそろそろきつそうだと思ってな」

「だだだ大丈夫っすよ!」


 ライトウの背部にいる白衣が微動する。


「といってもそろそろお前の筋力がきついんじゃないか? 普通にしがみつけばいいのに、少し身体を浮かしているだろう?」

「だだだだってそそそそれは……」

『……』


 ミューズがライトウに抱き着かないのは、きっとカズマに遠慮してなのだろう。他の男に抱き着くこと自体が裏切りに感じているのだろう。だから可能な限り抱き着かないようにしている――という心情がカズマにはよく理解出来た。


「そ、そんなことを言ってライトウはあたしの胸の感触を確かめようとしているっすね!? えっちっす!」

「は? たまに当たっていたが、まるで板かと思うほど硬かったぞ?」

「むきー! それは胸にいれているパソコンの感触っすよ! あたしの感触じゃないっす! っていうか感触味わっているじゃないっすか!」

「中途半端に浮かすからガンガン当たって痛いんだよ。密着してくれた方がこちらとしても運びやすいし、落ちる心配がないから精神的に楽なんだよ」

「いやっす! 限界までは頑張るっす!」

「いや話聞けよ。――なあ、カズマ?」

『意地張らないで無理な時はライトウの言う通りにしてね』


 了解っす、と間延びした声のミューズに、ライトウはやれやれと首を横に振りながら刀を振る。

 すると数メートル前方にいた敵国戦車が――爆発した。


「お、出来た」

『……ライトウ、今、何をしたの?』

「キングスレイがアドアニアで離れた場所からビルを斬ったのを真似てみたんだが、さっきから上手くいかなくてな。やっとコツが掴めた」


 そう言いながら二度三度と刀を振って前方の兵器を爆破させ続けるライトウに、カズマは開いた口が塞がらなかった。


(……アドアニアから何か修行みたいなことをしているなとは思っていたけれど、まさかこんなことまで出来るようになっていたとは……ますます人間離れをしているなあ……)


 感心にも畏怖にも似た感情を抱いた、その時。


「――色々お出ましの様だな」


 ライトウのその声でカズマも気が付いた。

 いつの間にか前方に大きな建造物が見えていた。

 その姿は正に要塞と言っても過言ではない。

 間違いない。


 あれが――軍本部だ。

 

 と、同時に。

 そのことを実証するかの如く、その周辺に現れた幾つもの影。


 ジャスティス。

 二足歩行型の兵器。


 数機が手に持った銃の先をこちらに向けていた。


「ここからが本番、だな」

『それは僕のセリフだよ、ライトウ』


 ダン、と。

 カズマは前方のジャスティスに向かって銃を撃つ。


『ここでジャスティスを足止めし、撃破するのは僕の仕事だ。だからライトウ、ミューズ、君達は――』

「ああ。俺達は軍本部まで入りこんでくる」

「本当はクロードもだったんすけどね、まあ、イレギュラーがあったけれども、クロードならすぐに追いついてくるっすね」

『そうだね。じゃあ一時的だけど――ここでお別れだ』


 カズマは大型の刀を手に持ち、少しだけ加速してライトウを追い越すと、直線上にいたジャスティス二機をあっという間に斬り落とす。

 対ジャスティスはやはりカズマが群を抜いている。

 それをトリガーに、相手ジャスティスの矛先が一斉にカズマのジャスティスに向く。


『――武運を』


「……ああ」

「カズマも……無理しないでくださいっすね……っ!」


 カズマがもう一機斬り捨てると同時にライトウがスピードを上げる。軍本部へと向かって小さくなっていくその背中を一瞥し、カズマは短く息を吐く。


『さて、と――このセリフを言っておきますか』


 カズマは気合を入れる。

 ここでの彼の役割はただ一つ。


 ――とにかくジャスティスを破壊する。


 市街に出てくるジャスティスを、全て破壊する。

 戦闘においてジャスティス戦を一手に引き受ける。

 それが『正義の破壊者』の目的。

 だから――


『これから、ジャスティスを破か――』



 ドガッ!!!



 突然の轟音。

 いきなり背部で発生したそれに思わず振り向く。

 するとそこには赤い光景――燃え盛る模造ジャスティスの姿があった。模造故に人間の命を燃料としている訳ではないので、破壊された場合には燃料に引火してこのような状態になるのは分かる。外装もジャスティスまで強度を保っている訳ではないのも分かっている。

 だが、これは一般兵器で倒せるほどやわなモノでもないのだ。


 だから分かった。

 すぐに分かった。


 突然破壊された模造ジャスティス。

 そしてそれは一機ではなく、二機、三機と増えていく。

 このままじゃ戦力が減らされるだけ、と判断したカズマは即座に間に刀を割り込みさせる。

 ガキィン!!

 鈍い音が響き、攻撃が止まる。

 そこでようやく頭の理解が追いつく。

 一瞬でこちらの模造ジャスティスを破壊した存在。

 それは相手ジャスティスであった。

 但し、普通の二足歩行型ではない。

 あのスピードが出せる機体を、カズマは一種類しか知らない。


『やはり出てきましたか……』


 できれば他国に派遣中であれば良かったと思ったとは否定しない。

 だけど、カズマにも思う所はある。

 アドアニアでの戦い。

 彼は手も足も出なかった。

 だからこそ、今回は――



『今日は絶対破壊してやりますよ。――



 そこに存在している一機の四足歩行のジャスティスに向かって、カズマは誓いを立てた。

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