第294話 決戦 05

 陸軍元帥コンテニュー。

 笑顔を携えた、金髪碧眼の青年。

 その姿は今は二足歩行型兵器の中に隠れているが、声とその行動ですぐに彼だと分かった。


「これから攻め入ると気合を入れた所で横槍を入れるとは、素晴らしいタイミングだよ」

『お褒めの言葉ありがとう。そう言うと思っていたよ』


 あの時見たような余裕綽々とした笑顔が目の浮かぶような返答をしてくる。

 反面、クロードは態度で余裕を見せるも、内心では少し動揺していた。


(……てっきり後の方に出てくると思ったが、まさか最前線に出てくるとは……こいつ、陸軍のトップである自覚はあるのか?)


 人のことは全く言えないとつっこまれそうなことを思いつつ、クロードは周囲に視線を向ける。

 門にある砲門。

 待機しているジャスティス数機。

 ここからの攻撃を予想して防御壁を展開していたのだが、機を外された形だ。

 そして――更に予想外の言葉を、コンテニューは発してきた。


『ああ、そこにいる兵士のみんな。ジャスティスのパイロットも含むよ。陸軍元帥としての命令だ。――


 唖然とした様子が敵側からも伝わってきた。

 この場から離れ、中央の守りを固めろ。

 これはつまり、この正門を捨てろ、と言っているのと同義だ。


『ああ、勘違いしないでもらおう。これは政治的な意味での指令だよ。お偉いさんを出来るだけ守れ、ってね』


 これは不本意な形なのだと強調する。何処の国でも最適を選べないモノなのだな、と少々の憐れみを覚えていた所、


『それにここは捨て置かないよ。なんせ――


 ひどく自信に満ちたその言葉。

 しかしながら肌で感じられた。

 相手の士気がみるみる上昇したということを。

 あっという間に彼らは身を翻し、『正義の破壊者』に対して背を向けて門の中に入って行った。

 その行動は正にコンテニューを信じ切っているという証拠であり。

 そして――彼がそれだけ信頼の与えられる強さを保持しているという証でもあった。

 故に『正義の破壊者』の面々は警戒し、動きだすことが出来なかった。逆にあれ程までに無防備に背中を見せられたことに動揺したとも言っていいだろう。

 あっという間に正門の内部にいた人も含めて気配が無くなった。

 残っているのはただ一機のジャスティスのみ。


『さてさて――見守ってくれてありがとう、皆さん』


 両手を広げる所作をする目の前のジャスティス。一見して他のありふれたジャスティスと変わらぬ見た目ではあるのだが、しかしどこか禍々しいオーラが見える――そんな幻想が見えるような不気味さを携えていた。

 この不気味さに対抗するのは、ただ一人しかいない。


「――見守ったわけではない。背後から狙い撃つのは卑怯だと思ったからだ」


 同じようにクロードも両手を広げる。


「戦闘する意思を持たない人間を撃つなんてそんなことはしないさ。だから見逃してやった、という言い方に変えてもらおうか」

『中にはジャスティスもいたでしょう? それも見逃したのですか?』

「ああ。刃向ってきたら迷わず破壊していたがな。まあ刃向ってこなくても、結局最後には中に人がいない状態で破壊するけれどな」


 ジャスティスを破壊する。

 それはブレていない。

 但し、ジャスティスを破壊するとパイロットの命も失われるので、むやみやたらと人を犠牲にすることは望まない。

 破壊されることを覚悟した上で挑んでくる人間には容赦などしないが。


「で、だ」


 クロードは鼻を鳴らす。


「お前は俺達――『正義の破壊者』のこの戦力を前に、本気で自分一人で勝てると思っているのか?」


 クロード。

 ライトウ。

 カズマの操るジャスティス。

 更に追加である一機のジャスティスと、一〇機のジャスティスに似たルードのロボット兵器。

 そして何基もある移動式大砲と、戦車などの一般兵器。

 戦力差は誰が見ても圧倒的に『正義の破壊者』の方が上である。

 にも関わらず、彼は一人でこの場に残った。

 この戦力差をひっくり返すだけの何かがある。

 彼一人だけでこの門を守る策がある。

 それが何か。

 きっと彼は答えないだろうとは考えてはいつつも、挑発の為にクロードは先の言葉を投げた。


 ――だが。

 ここでもまた予想に反した言葉がコンテニューから返ってきた。



『――

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