第293話 決戦 04
◆正門 ――『正義の破壊者』
ルード国正門。
「――さて、と」
門に対峙する形で位置する集団の中央部にて、黒衣を纏った少年が口を開く。
彼の名はクロード・ディエル。
魔王と称された少年。
そしてこの集団――『正義の破壊者』のリーダーであり、象徴でもある。
「大体三〇分くらい経ったか?」
「そうっすね。クロードの放送からそれくらいっすね」
横にいた白衣の少女――ミューズがパソコンを片手に応える。
「ここまで相手からの攻撃を受けないのは想定内っすね。あ、因みに時間経過は正確には二九分五三秒くらいっすけどね。まあ誤差の範囲っす」
「……凄いな」
ミューズのそのまた横にいる刀を持った少年――ライトウが驚嘆の声を上げる。
「俺は誤差三〇秒くらいだった。まだまだ修練が足りないな」
「……いや、どちらもおかしいっすからね、言っておくっすけど」
ミューズが呆れた声を放つ。
「クロードはまだ何らかの方法を使って時間を測っている可能性があるのと適当に言ったら近かった、って可能性があるっすが……ライトウ、あんたは素でおかしいっす」
「何でだ?」
『ミューズ、ライトウのおかしさは次元を超えているから言及しても無駄だよ』
その声は、クロードに一番近い二足型歩行ロボット――ジャスティスから聞こえた。
中のパイロットはカズマ。
妹を亡くした復讐鬼と化していた時とは違い、こうして余裕を見せて会話に参加していた。
『クロードさんとライトウの行動に突っ込んでいたら身が持たないよ』
「そうっすね。ツッコミ役は疲れるっす。ここらへんにしないと話が逸れまくるっすね」
「なんか腑に落ちないが……まあ、いいか」
ライトウが不満そうに眉間に皺を寄せるが、すぐに首を横に振る。
「それよりクロード。三〇分経過したっていうことは、もう進軍していいってことだよな?」
「ああ。これだけ時間を与えていれば非戦闘員は逃げ出しているだろう」
クロード達が攻め入る宣言をしてから猶予を与えたのは、一般人を逃がす為である。
彼ら『正義の破壊者』はあくまでジャスティスを破壊する為の組織であり、ルード国を打ち倒すことを目的とは名目上していない。故に、一般人まで被害を及ぼすことは彼らの意図と反する。
但し、ジャスティスを破壊しようとする彼らを邪魔しようとする存在は別の話だ。
例え一般人であろうと、彼らの進軍を止めようとする人達は敵としてみなす。
「流石に家とかは諦めてもらわないと。戦闘が終わった後に出来るだけ復元はするつもりだけど細かい所までは出来ないから、大切な思い出の品は持って逃げてもらわないと」
「ただ積極的に破壊するつもりはないけれどな」
『だけど、これはもう戦争です。犠牲なしで終わらせることは出来ません』
「――分かっているさ」
カズマがライトウに向けて言ったのであろうその言葉だったが、そう回答したのはクロードであった。
「俺は甘いことは言わないし、考えていない。ただジャスティスを破壊するだけだ。逃げる時間を与えたし警告もした。俺が出来るのはそこまでだ」
本当であれば猶予の三〇分ですら不必要だ。しかしながら奇襲をする訳でもないので猶予を与えることで『正義の破壊者』側に不利になることは何もない。逆に狙撃などの可能性があったのだが、それは一般兵についてはジャスティスを盾にして万が一でも門側からの攻撃を食らわないように位置させていたし、クロード自身は見えない空気の盾できちんとガードしていた。もっとも、正々堂々と真正面から姿を現している相手に対して、ルード側がそのような攻撃を仕掛けては来ないだろう、という予測はあったのだが。
「ミューズ」
「はいっす」
クロードは彼女から手渡された拡声器を口元に当てる。本来はクロードの能力で電波を変化させているので拡声器など不必要ではあるが、相手側に「この拡声器には何かあるのでは?」と思わせる効果を狙う為に敢えて道具を使用している。
そしてクロードはすうと大きく息を吸い、
「――ルード国諸君。『正義の破壊者』代表、クロードだ。おおよそ三〇分ぶりだな」
拡声器に向かって声を放つ。
その声は再びクロードの能力によってカーヴァンクル中に響き渡る。
「さて、先の宣言から時間を置いたが、その理由は分かっているだろう? そう。心の準備をさせるためだ。俺達は奇襲をするわけではない。ジャスティスの破壊を阻害しない一般人に危害を加えるつもりはない。そのことを改めて証明する為にこの時間を作った」
こう口にするが、彼らがやっていることは奇襲に他ならない。三〇分かそこらで準備が出来る訳がないのだから、ただの詭弁である。しかしながらこれだけの少しの間を置くことで、大して損はしないのに相手に嫌な印象を与えられる。加えて先の言葉により、人によっては『正義の破壊者』に傾倒しても良いのでは、と思う人も生まれる可能性がある。そこまでいかなくとも迷いが生まれる可能性は十分にある。
その迷いとは、カーヴァンクルに――戦場と化すこの場所に居残ることである。
彼の言葉で気が付く人は気が付くであろう。
逃げる時間を与えた。
なのに逃げていない人は――巻き込まれても仕方ない。
そうとは言っていないのに、そう思い込む人もいるように仕向けた。
勿論、全ての人がそう思うとは限らないし、思わない人の方が多いかもしれない。
それでも、やらないよりはやった方がよい。
この考え、この行動は味方の士気を上げる。
何も味方も罪のない一般人を殺したくはないのだ。
それをトップが理解し、堂々と告げてくれたことでこれから戦う兵士達の心は少し軽くなる。
――それでも。
一般人を巻き込まないことはどうしても出来ないだろう。家やビルは壊れるだろうし、逃げずにいる人に流れ弾のような形で被害が出てしまうこともあるだろう。
それを分かった上で、クロードはこのような行動に出たのだ。
言い訳ではある。
弁明でもある。
だが、味方の心を守るために行った。
そのことを理解した兵士達のモチベーションは少なからず上がり、クロードへの崇拝の気持ちが更に高まっていた。
加えて高揚感。
これから戦闘が始まるということについて、心がざわついてくる。
「では前置きはこのくらいにして――これより、先の宣言通り行動を開始する」
そのクロードの言葉と同時に、ライトウは刀の柄に手を掛け、ミューズはライトウの背部に回り、カズマのジャスティスは微動する。他の戦闘員も各々戦闘態勢に入る。
そしてクロードは右手を大袈裟に前に突き出した。
「全軍、突げ――」
『――そうはさせませんよ』
その声は真正面から聞こえて来た。
決して大きくはなく、荒くもない。
だけどそこにいる誰もが凛としたその声を耳にし、同時に驚きに目を見開いた。
正門の向こうから一機のジャスティスの姿が現れ、ゆったりとした動作で片手を挙げ、どこか気の抜けるような穏やかな声を掛けてくる。
『どうもお久しぶりです。アドアニア以来ですかね』
「……お前は……」
『おやおや、元気そうですね――僕が与えた傷もきちんと完治したようで』
クロードはその声に聞き覚えがあった。
忘れもしない、あのアドアニアでの出来事。
対峙した人物。
そして――クロードに敗北を知らしめた人物。
「ここでお前が出てくるのは予想外だよ」
クロードは忌々しげに相手の名を口にする。
「陸軍元帥――コンテニュー」
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