第282話 平和 03
クロードが皆に言葉を投げかける。
確かに、クロードに対して最大の侮辱とも捉える意見を口にしても彼が否定せずに話を進めたことによって、意見を述べることについてハードルは少し下がった。
だが――ほんの少しだけだ。
元からかなり高いハードルは少しくらい下がっても誰も越えられない。
こんな場にいきなり連れて来られて平和について意見を述べろと言われても、口を開く人間はいない。――正確には、驚きで口は開いているのだがそこから言葉が出てきていない、と言った方が正しい。
無理もない。
こんな状況で意見を口に出来るのは勇者か愚者くらいであろう。
「あの……ならば言っていいですか?」
いた。
意見をいう者が存在していた。
そうおずおずと手を上げたのは、茶色の髪をおかっぱにした男性であった。
彼の頭上に記された名はピエール・オパメ。出身地はゴバンという、西方の小国であった。
「どうぞ。遠慮なく言ってみてくれ」
「分かりました」
そう頷き、ピエールは起立する。
「あの……まず僕のこと誰だって言う人がいると思いますが、僕は『正義の破壊者』の中でも数少ないジャスティスのパイロット、という選ばれた人間だということ前置かせてください……」
周囲がざわめく。
ジャスティスのパイロットについては、ただ二人だけしか今はいない。
言うまでもないが、一人はカズマ。
彼が言うことが正しければ、もう一人がこのピエールということになる。
しかしこの青年は、自分が口にしたことを理解しているのだろうか。
組織『正義の破壊者』。
その目的は『ジャスティスを破壊する』ことであり、ジャスティスに憎しみを持っている人が多数いる組織でもあるのだ。
少なからず恨みが込められた視線が彼に向けられる。
その鋭い視線に並の人間ならば怯んでしまうだろう。
だが、
「あ、そんな羨望の視線で見つめないでください。照れてしまいます」
「……」
クロードが咄嗟に近くにいるカズマに視線を向ける。
すると彼は「……あの時は若かったんです……」と周囲の二、三人しか聞こえないような声でそう呟いた。
ということはあの時――ガエル国ハーレイ領でのヨモツとの戦闘前にカズマと会話した、使い捨ての人間をジャスティスのパイロットに選定する、ということで生き残った人物なのであろう。成程。選ばれるだけはある。使い捨てにしてもいいとは思わないが、かなり特殊な人間であることは短い言葉でも分かった。
ただ、特殊な人間は視点も違うかもしれない。
――そのような期待を抱きつつ、クロードは先の言葉を告げるように促す。
「で、君はジャスティスに乗っていて、平和にする為には何が必要だと思っているんだ?」
「んーとですね、端的に言うとですね……」
人差し指を顎に当て、彼は何の邪気も含まない言葉を投げる。
しかしそれは――会議の場に混沌を生み出した。
「ジャスティスが必要だと思っています」
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