番外編 飲会 05
軍の上層部が揃いに揃って酔いつぶれている。
この光景は何があったのか。
まずは各々の状況を認識することに努めよう。
総帥キングスレイは、机に突っ伏して寝息を立てている。ジェラスより老齢故に仕方ない部分はあるだろう。
ジェラスと同じ幹事としての役割を担っているブラッドは、ふんどし一丁でセイレンの話を聞いていた。いや、聞いているふりをしているのが正しいだろう。盛んに酒を自分で注いでは飲んでを繰り返している。ブラッドの場合は酒でも飲まないとやってられないという形で自分であおったのであろう。ある意味申し訳がない気持ちになってきた。
一方、セイレンはいつものように白衣を着て流暢に何やら小難しいことを一方的に語っている。それだけだといつものセイレンのようにも思えるが、彼女もブラッドと同じペースで酒を飲んでは喋ってを繰り返しており、語尾も怪しくなっていることから確実に酔っていると言えるだろう。しかし彼女が酒を飲んでいる姿はある意味犯罪的でもあるが、そこに触れるのは止めておこう。
残る二人――ヨモツとアリエッタの様子は更に混沌としていた。
ヨモツは涙声で「もう勘弁してつかーさい……」と懇願していた。泣き上戸なのか、それとも相手の所為なのか。いずれにしろ普段の彼からは想像のつかない弱々しい様相であった。
そしてその彼と相対しているアリエッタは、壮絶に愚痴を述べていた。彼女の白い肌は赤くなっていて、眼は完全に座っている。彼女については、ここまでお酒に飲まれるとは想像もつかなかった。何となくだがお酒に強いイメージがあったからだ。
――さて、そんな混沌としたこの場をどうしようか。
ジェラスの胃が締め付けられた。
このまま帰っても良かったのだが、しかし遅れてきたこと、そしてふんどし一枚の友人の姿に罪悪感を覚えたので、その選択肢は真っ先に捨てた。ジェラスがお人よしとも言われるが所以が、このようなところである。
(まずはふんどしを救ってとりあえず場を整頓しよう)
ジェラスはパンと一つ自分の頬を叩き、セイレンとふんどしの間に割り込む。
「ちょっと失礼……ブラッド、これは一体どういうことだ?」
「ああ……ジェラス……遅いぞ……」
見るも無残に飛び出た腹を揺らしているブラッドは息も絶え絶えになっていた。
「まずはその恰好になっている理由を簡潔に述べよ」
「盛り上げに欠けたから」
「うん。大体分かった」
きっと彼は幹事として使命を果たそうとしたのだが、予想外に――いや、予想通りに盛り上がりに欠けてしまい、それを打開する為に脱いだのだろう。脱ぐという行為に頼るのは最終手段だとジェラスは考えていたが、ブラッドは早々に使ってしまったようだ。
だが、そのおかげなのか所為なのかは分からないが、現状は意味盛り上がっている。
「頑張った……お前は頑張ったよ……」
「そうか……俺は頑張ったか……」
ふっ、と儚げに微笑むブラッド。
「ならば……ここで散ることを許してくれ……」
「いや、それは駄目だ。起きろ。服は着なくてもいいから」
「……zzz」
「寝るな。起きろ……もう無理か」
見た感じでもう分かった。
残念ながら彼は完全に意識が飛んでいた。
床に四肢を投げ出して。
ふんどし一丁で。
「あらぁん。ブラッドちゃんも駄目ねぇん。もぉん」
「……」
その顔を、白衣でぺしぺし叩く少女――いや、年齢的には既に成年をとうに超えた女性。
セイレンは妙に艶めかしい声を放つ。
「お酒飲み足りないわぁ。でもこれ以上飲むと脳細胞死んじゃうわぁ。これくらいの思考回路だったらジャスティスは支援ロボットとしてだけで戦闘用には転用しなかったかもねえ。思いつきってやっぱ駄目だわあ。誰でも使える便利ロボットのままで留めておく脳よねえ今の状態はあ……まあどうでもいいわねえ。――ということでおやすみなさい」
と。
至極勝手に意味深長な言葉をぺらぺらと放ち終わった後、彼女もブラッドと並ぶ形でゴロンと横になった。
「……何だったんだ、この人は……?」
正直に思ったことを口にしてしまったが、その疑問は別に解決する必要はなく、むしろ彼女を起こしておいてもいいことはないのでそのまま放置をすることにした。
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