第279話 後悔 13

   ◆クロード


 皆が立ち去り、一人残された部屋。


「……くっ」


 最後にライトウが退室して数秒してから、クロードはそうぽつりと言葉を落として、ベッドに倒れ込んだ。

 肩で息をし、汗がにじみ出てきている。

 クロードの重傷は、勿論完治していなかった。先程立ったり歩いたりしたのは、足の周辺の空気を変化させて立たせたり、動いている様にだけだ。更に無理矢理外部から動かしたので、足がひどく痛んでいた。

 だが、そんな痛みについてなどは、クロードの頭の中にはなかった。


「……申し訳ないことをしたな」


 あの時、クロードは様々な人の頭の中を覗いた。

 覗いた上で、状況を把握した。

 そこで驚いたのが、ライトウの考えが深くなっていることだ。

 ライトウはかなり勘が良くなっている。あれだけの身体能力に思考が身に付けば、鬼に金棒であろう。

 だが、そんな彼にも、自分の考えを読ませるわけにはいかない。


 自分が納得していない、ということを。


 先のウルジス王の言葉、ならびにライトウの言葉。

 響かなかったと言えば嘘になる。

 考えた。

 相手の言うことも聞きいれた。


 それでも――クロードはどうしても受け入れられないことがあった。


 子供のワガママでもいい、ジャスティスを破壊することだけを考えろ。

 それによって生じる弊害については、大人が対応してやる。


 非常に魅力的な提案であり、クロード自身が『正義の破壊者』を設立した目的としても、実は沿った内容であった。

 昔の自分ならば迷いなく受け入れただろう。――先の行動のように。


 しかし。

 クロードは成長している。

 いつまでも子供ではいられない。

 思考するなと言っても、思考せざるを得ない。


「……ライトウには思考することを封じたけれどな」


 自分は自分。

 人は人。

 都合がいいが、それぐらいはいいだろう。

 それに自分は、ある意味意図は沿っているのだ。


 ジャスティスを破壊する。


 その目的は達成する為に動く。

 その弊害のことは考えない。

 それ以外のことは考えない。

 その後のことは考えない。

 ……少ししか考えない。


「……」


 今、彼の脳裏に浮かんだのは数人の笑顔。


 刀を持った少年。

 利発そうな少年。

 白衣を着た少女。

 そして――赤髪の少女。


 求めるのはそれだけ。

 それだけだ。

 それだけでいい。


 ――だから。



「ケジメは……きっちりと付ける」



 彼の心の中で一つの強い誓いがあった。

 その誓いは誰にも言わない。

 自分の中だけで秘めておく。



 実行される――その時までは。

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