第273話 後悔 07
――自分の浅はかさを許せない。
そんな言葉が彼の口から出てきた。
その真意を、正直ライトウは図り損なっていた。
「な、何故だ……クロードが悔やむ必要は何もないだろう……?」
「……ライトウ。君は優しいな」
クロードが苦悶に歪めた表情で小さく息を漏らす。
笑っていない。
だが彼はきっと内情では自分のことを『嘲笑』している。
それがハッキリと分かる様相であった。
「これだけ醜態を晒している人間に対し、それでも付いてきてくれると言ってくれる。非常にありがたいことであり、嬉しいことではあるんだ」
「だったら――」
「だからこそ、ライトウの言葉には否定をしなくてはいけないことがある」
否定をしなくてはいけないこと。
「確かに、みんなに初めて会った時は、何も考えずに能力を使ってジャスティスを破壊していた。だけど今は何も考えずになんか出来ない。色々と考えてしまっている」
だから、とクロードは小さく首を横に振って言う。
「分かったんだ。自分がいかに――ワガママな子供だったのか、ということが」
「ワガママ……?」
「そうだ。ジャスティスを破壊する、と言いながらその他のことを考えていなかった、ただの先の見えていないガキだったということが嫌というほどに思い知らされたんだ」
クロードは両手で額を抑えたかと思うと、呼吸音が乱れていく。
「みんなが俺のワガママに振り回されていただけだ、っていうことに気が付いた。そこから自分がどう行動していいか、どう能力を使うべきか――考えれば考える程に分からなくなってしまった。そして考えれば考える程に、自分の行動に後悔してきて……いかに自分が今まで何も考えていなかったのか……」
「……」
何も答えられなかった。
クロードはかなり精神的に参っている。それは先の敗退、ならびに負わされた怪我の影響が少なからずあることは分かる。
だけど、彼の言うことも分かる。
分かるというか、刺さる。
ライトウも少なからず思っていたのだ。
自分の考えなしの行動については。
それはミューズもカズマも同じだったようで、共に表情を暗くさせている。きっと二人も思う所があるのだろう。
今や巨大な組織となった『正義の破壊者』だが、それを仕切るには自分達はまだ若すぎるのだ。
考え方も、実行していることも、何もかも。
考えなしに――少なくとも熟慮することなしに突き進んでいる。
それで今までは上手くいっていた。
しかし、一度このようにこけると、このように立ち直れずにいる。
ただ、この場を打開する方法について、ライトウは一つ思いついていた。
こう言えばいいだけだ。
クロードは子供なんかじゃない。
それを口にするのは簡単だ。
但しそれは、クロードに新たな重責を負わせることと同義だ。
大人として――逃げ道を一つ無くすということに成り得るのだ。
クロードに全てを背負わせてはいけないと思っている。
だけど今、そのクロードの苦しみについて、適した答えを返せない。
安易な言葉すら言うのを躊躇わせる。
結果。
再び重い沈黙が場を支配する。
――かと思われたのだが。
「――邪魔するぞ。まあ、ここでは色々な意味でその言葉を使わせてもらおう」
その声は、この部屋にいた人間のモノではなかった。
思わず振り向き、声の主を確かめる。
視認した瞬間に驚きに目を見開く。
鈍色のマントに身を包んだ地味な格好ながらも高貴なオーラは隠せていないその人物は、その顔に蓄えた立派な髭に触れながら、堂々たる様で部屋の入口に立っていた。
ウルジス・オ・クルー。
ウルジス国の王が、そこにいた。
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