第272話 後悔 06

「違う……? 何が違うんだ……?」

「俺が問い掛けた全ての質問に対しての答えだよ、クロード」


 瞳が揺れているクロードに対し、ライトウはブレなく真っ直ぐに見つめる。

 自信に満ち溢れた視線で。


「君がルード国に喧嘩を売らなかったら、俺達の家族は殺されなかった? そもそも過去に遭っていなかったら殺されなかった? ――それは事実だと思うか?」

「……事実だ。事実に決まっている」

「それは誰かに言われたのか? 君のせいで俺達の孤児院を襲ったのだ、と?」

「いや……そうではないけれど、ただ、そうじゃなきゃ、ライトウ達の孤児院が襲撃される理由がない、はずだ……」

「そうか。誰かから直接聞いたわけではないのだな」


 ――良かった。

 ライトウは心の中でホッとする。

 もし直接言われたのであれば別のパターンに変えなくてはいけないが、言われていないのであれば予め立てていた道筋通りに話も進められそうだ。

 こちらの方が、自分としても相手を説得できる自信がある。


「ならばそれはあくまで結果論であり、事実ではない、ってことになる。俺の中ではクロードのせいで孤児院が襲撃された、っていうのは推定であって、事実は、ルード軍のジャスティスによって殺された、ってだけしかない。それだけだ」

「でも、俺のせいで……」

「だからそれが、俺にとっては事実ではないってことだ。あと、こうも言ってやろう」


 ライトウは口の端を上げて、堂々たる様で告げる。

 まるで――皆を率いている時のクロードのように。


「それがどうしたんだ?」


「なっ……」


 クロードが口を半開きにさせる。

 呆気に取られた、という言葉がよく合っていた。

 そんな彼に、ライトウは叩き込む様に言葉を重ねる。


「例えそれが事実だったとしてもそれは過去だ。今現在には関係ない。それを謝罪してもらった所で命は戻らないし、俺達も離脱しない。だからこう言ったんだ。――『それがどうしたんだ?』ってな」


 さり気なくミューズとカズマも含めた言い方にしてしまった。だが、さり気に「俺達」と言った時に二人の様子を確認したのだが、そこに反発を覚えている様子はなかった。

 そこに安心感を得ながら、ライトウはクロードに手を差し伸べる。


「だから君がこの件で俺達に謝罪する必要なんかない。俺達のことなんか考えなくて、今まで通り進んでもらえればいいんだ」


 ――正直な話。

 クロードの影響で施設が襲われた、ということについては思う所はある。それが事実か事実ではないかは置いておくにしろ、彼と会わなかったら今とは全く別の人生を歩んでいた可能性も多々あるからだ。

 言われた通り、平和に暮らしていた可能性もある。

 何なら、アレインと結婚していた未来だってあったかもしれない。

 だけど、それはあくまで『可能性があった』という話でしかない。

 現実は違う。

 自分達は戦場に立っている。

 アレインは別の男を好きになって、死んでしまった。


 しかし――それらは全て結果論でしかない。


 ああすればよかった。

 こうすればよかった。

 後からならばどうとでも言える。

 しかも、彼自身が手を下したわけではなく、副次的になってしまった、意図的ではないこと。

 だったら彼を責めるのはお門違いだ。

 真に恨むべきはルード軍。

 それだけだ。


「なあ、二人もそう思わないか?」


 そこでライトウは敢えてミューズとカズマの二人に言葉を投げながら振り向く。

 二人の表情は対照的だった。

 ミューズは満面の笑みで頷いていた。思慮が足りないのではなく、この場の空気を読んだ上での判断だろう。

 逆にカズマは、神妙な面持ちであった。彼はよくよく考え、その上で結論を出そうと今は思考を巡らせている所なのだろう。否定的なモノではないことは付き合いの長いライトウには分かっていた。

 それでも彼は必要であることを思考を速めたのだろう、数秒後には首を縦に振っていた。

 これで全員がライトウの言葉に賛成したことになる。


 ――だが。



「……それでも、俺はやはり自分の浅はかさを許せない」



 小さく首を横に振って、彼は大きく息を吐いた。

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