第268話 後悔 02

 ふとしたことで気が付いた真実。

 だが、少し考えれば分かることでもあった。

 ここまでルード国と戦っていた中で、彼らも彼らなりに国としての体裁を保っていることも判っては来ていた。


 その最たるものが――ウルジス国への対処、である。


 圧倒的な武力で制圧すればよいにも関わらず、ウルジス国がジャスティスを隠し持っていることからむやみやたらに侵略をせずに慎重に事を進めていた。昔はどうだったのかは全く分からないが、つい最近では世界に批判される侵略行為は行っていなかったことも推察できる。

 そうでなければ、ルード対ウルジスというだけの世界情勢にはなっておらず、現状のようにルード対その他多数、という構図になっていたであろう。

 つまりルード国は一応、正当な理由なき侵略をしていなかったかの国、という位置づけにはあったのだ。

 そんな彼らが、密かであってもとある孤児院を襲撃する理由が見当たらない。

 何か大きな理由があったと考えられる。

 それが――クロードと母親が訪れたことがある、ということだった。

 何故この時期なのか。

 簡単な話だ。

 今までは脅威など何もなかった。

 七年前に魔女が死んだからだ。

 だからそういう情報があったとしても放置していたのだろう。もしかしたら母親が何かしていたのかもしれない。


 だけどそれを、クロードが全てぶっ壊した。


 魔王として狼煙を上げ、ジャスティスに対する復讐鬼と化した。

 考えているのは復讐だけだった。

 ちょっと考えたのはマリーのこと。

 それ以外は何も考えていなかった。

 ある意味一直線。

 ある意味愚直。

 他者への影響など、何も考えていなかった。

 ジャスティスに関係する人間はどうでもいい。今でもそうは思っている。

 だが――間接的に被害を受けてしまうことは別だ。

 全く考えも思いつかなかったが、彼らの孤児院は正にこのケースだ。

 クロードが魔王としてケンカを売らなければ。

 クロードが能力に目覚めずに、あの時にジャスティスに殺害されていれば。

 彼らは『正義の破壊者』に所属せずに死ななかった――だけではない。

 孤児院を――家族を――失わなかった。

 理不尽な殺害のされ方はされなかった。


 それが真実で。

 不変の事実だ。


「だとしたら……俺は……」


 ドシン、と背中に何かが覆いかぶされるような錯覚に陥った。

 重い。

 重くて体が起こせない。

 気が付いた途端、他のことも考えて。

 考えて、重くなる。

 考えれば考える程、後悔が精神を攻めてくる。

 責めてくる。


 例を挙げれば――アドアニア国。


 クロードの行動一つで、国としての尊厳を失った。

 クロードの行動一つで、住む場所を失った人がいた。

 クロードの行動一つで、実質的に国が失われた。

 あの偽りのゴーストタウンならぬ――『ゴーストカントリー』なのは、全てクロードの所為だ。

 残された人々も何も考えず、ジャスティスに復讐するという一心だけで、実質、国を滅ぼした。


 それを起こしたのは誰だ?

 クロードだ。


 それを起こした理由は?

 ジャスティスに母親を殺され、日常を壊されたから。

 だから全てのジャスティスを破壊する。


「――それだけ、で……」


 それだけ。

 たったそれだけ。


 それだけで、どれだけ犠牲にした?

 それだけで、どれだけ世界を混乱させた?


 意図せずに、いや――何の考えもなしに。

 クロードはこれだけ引き起こしていた。

 それがどれだけ罪なことなのか。

 愚直に進んできた、その思想がどれだけ愚かしかったか。

 そして彼は――自覚した。



「俺はただの……ワガママな子供だ……」



 力を持った子供。

 それが自分の正体であることを。


 世界はただそれに振り回されているだけで、その未来さきには何もないのだということを。

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