後悔
第267話 後悔 01
◆
ベッドの上でクロードは頭を抱えていた。
彼がそのような行動を取っていた理由はただ一つ。
先程までのライトウの回想の内容を読み取っていたからだった。
意識を失っていた際の――文字通り無意識での行動だった。彼が壁を挟んで五メートル以内の距離にて回想していたことも要因の一つであろう。
カチリ カチリと。
無意識にライトウの記憶の鍵を外していたのは、もしかするとクロードだったのかもしれない。
もしくは、過去の回想であった通り、ライトウが思考を深くする修練を行ったことで記憶を消去していたクロードの母親であるユーナ・ディエルの能力よりも成長したからなのか。
いずれにしろ、クロード自身ですら覚えていないライトウ達との出会いが、こうして思い出された。
しかも、明らかなライトウ目線で。
しかし、クロードはこの時のことを思いだせない。
幼い時は能力を使えていたらしいが、そんな記憶はない。
そもそも孤児院にいった覚えもない。
幼い頃の記憶は何処かなのか?
――全く覚えていない。
だが、そんなことよりもクロードの頭の中を占めていることがある。
それは――『後悔』だった。
「俺がみんなに能力を与えたから……戦場に……」
能力なんて持っていなかったら、『正義の破壊者』の幹部にはなっていなかったであろう。
そうなればきっと、失われていなかった命がある。
コズエ。
アレイン。
二人は『正義の破壊者』の幹部だったが故に、命を落とした。もし一般人であっても、孤児院を襲撃された恨みを持っていたら別の何かでルード国に刃向って命を落としていた可能性も否めないが、だからといって現状の命を落としてしまった状況に言い訳が出来る訳ではない。
現実は変えられない。
彼女たち二人を殺してしまったのは、クロードが『正義の破壊者』を作ったからだ。
彼らと手を結んだからだ。
彼らと手を結んだキッカケはジャスティスへの恨みであったことは間違いないが、特殊な能力を保持していたことも結果的に手を組んだ要因であることは、今思えばあったかもしれない。
「……いや、違う……っ! 俺は……あいつ達のジャスティスへの恨む気持ちが強かったからであって……………………っ!!」
自己弁護の言葉を口にしていた彼は、そこである事実に気が付いて目を見開いた。
思い出したのだ。
ライトウの過去の記憶の中で、自分の母親が口にしていた言葉を。
『これから私は君の、私達と関わった記憶を無くすわ。それは、私が……というよりも、クロードなのだけどね、君達に何かを与えた、ということを他の人に悟られないようにする為よ。もし分かってしまえば――それこそ、君達の命を脅かすようなことになるかもしれないわ』
『私が狙われているから。そして……あの話からすると、クロードも、ね』
狙われている。
それは確実にルード国からだろう。母親はルード国の――ジャスティスに踏み潰されたのだから。
母親と自分は、孤児院に訪れた。
その孤児院は、ルード国空軍に襲われた。
理由も分からず突然襲われたとライトウは言っていた。
だが――理由はここにあった。
何故襲ったのか。
それは、この孤児院に母親とクロードが行ったことがあったからだ。
魔女と関係していそうな施設を破壊した。
それしか考えられない。
しかし、それだと一つの疑問が生じる。
もし訪れていただけで襲撃の対象になっていたのであれば、発覚してすぐに襲われているはずだ。
なのに、ライトウ達が襲撃されたのは、つい最近のことだという。
少なくとも七年前――クロードの母親が殺害されたあの時期ではない。
それまでの間、どうして襲撃されなかったのか?
それは正直な話、分からない。きっと母親が何かしらで対応したのだろうが、その方法に全く見当がついていない。
そちらはついてはいないのだが――
「ぐっ……」
額を強く抑える。
掌の隙間からこぼれる吐息は荒い。
それもそのはずだ。
彼はここに来て、予想外の真実を見つけてしまっていたからだ。
ライトウ達が襲撃された時期。
正確な時期については推定にはなるが、その周辺で起きた出来事は、たった一つしかない。
魔王クロードの誕生。
クロードが能力に目覚め、ジャスティスに対する復讐心により魔王となった。
その周辺で理由なき襲撃があったのならば、ほぼ間違いがないだろう。
もし訪れた直後――クロードが幼い頃であったならば、クロードの所為は変わらずだが、放置した母親の責任もあったであろう。
だが現実は過去には何も起きていない。
襲撃などない。
ならば言い訳のしようがない。
彼らを『正義の破壊者』に引き入れたから。
――そんな次元の話ではない。
彼らが『正義の破壊者』に入った理由そのもの。
彼ら自身が襲われた要因。
家族を失った原因。
全てのきっかけは――クロードだ。
「俺の……所為だったのか……」
先と全く同じセリフ。
しかしそこに込められた感情は、更に深い後悔であった。
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