第265話 過去 13

 ――ライトウ君。


 名乗っていないのに自分の名前を呼ばれた所で、急に視界が歪んできた。

 きっと彼女がライトウを眠らせ、その記憶を消去している所なのだろう。

 これできっと過去回想も終わりなのだろう――とライトウ自身もそれを自覚して瞼が落ちてくるのが分かっている中、今のライトウの考えていることは一つだった。

 これで過去の記憶は終わるのだろう。

 だが、そこまで言って、敢えて彼女は触れていないことがある。

 先程、クロードの能力で変えてしまったモノは元に戻せないと言っていた。

 しかし、本当は消せるものが一つあった。


 刀。


 ライトウの持つ刀だけは、本当は消すことが出来た。

 だけど彼女はそうしなかった。

 それはライトウの意志を尊重してくれたからだ。


 その後のことは記憶を消されていない範囲なので単純に覚えていないだけなのだが、きっと彼女はこれら全て含めて、責任を取ったのだろう。

 ライトウの両親にも、きっと自責にして話してくれたのだろう。

 ライトウの記憶の中で、刀について言及されたことは一度もない。

 自分が言っていなかったのもあるので、先に彼女が言っていた、持っていても違和が無くなるということをされていたのかもしれない。

 だが、今更人を恨んでも仕様がない。

 結果として、ライトウの腰にはクロードが生成した刀がある。

 事実はそれだけでいい。

 それだけで、もし彼女に――クロードの母親に伝えることがあるとしたら、ただ一つだけだ。


 現状のライトウの気持ち。

 ――そして。

 偶然にも瞼が閉じる直前にライトウ少年が告げた言葉は、同じ言葉だった。




「――ありがとう」

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