第264話 過去 12

 先に放たれた、クロードの母親の芝居掛かった言葉。

 それは一瞬の静寂を生み出し。

 そして、表情の機微など気が付いていないであろうライトウ少年のツッコミをも生み出していた。


「……今のって何?」

「うっ……」


 クロードの母親は頬を赤く染める。


「えっと……能力とか刀とか隠す気になった?」

「あ、えっと……はい。さっきも言いましたけど、はい」

「……やっぱり駄目か、私じゃ……」


 はあ、と短く息を吐くと彼女はその場を離れ、倒れている他の人達の元へ早歩きで近寄り、そしてアレイン、ミューズ、カズマと次々とその頭に触れていく。

 何をしている――と激高することはしなかった。

 何故ならば、彼はもう知っていたからだ。


 クロードの母親。

 彼女はいい人だということを。


「こっちは、これでいいはず」


 彼女はそう言うと気を失っているクロードをその背に負うと、ライトウの元まで戻ってきて、その頭に左手を置く。

 ライトウは身じろぎひとつせず、その行為を受け入れた。


「……君にはきちんと話しておいた方がいいわね」


 彼女は真っ直ぐにライトウの目を見つめる。


「これから私は君の、私達と関わった記憶を無くすわ。それは、私が……というよりも、クロードなのだけどね、君達に何かを与えた、ということを他の人に悟られないようにする為よ。もし分かってしまえば――それこそ、君達の命を脅かすようなことになるかもしれないわ」

「命を……」

「そう。その理由は私が狙われているから。そして……あの話からすると、クロードも、ね」


 彼女の眉間に皺が寄る。


「だからごめんね。クロードをここに預ける訳にはいかなくなったの。でも、残念ながら私の力では君達をきちんと元に戻すことは出来ないわ」

「……?」


 幼いライトウ少年の視線が若干傾くが、きっとそれは彼女の言っている意味が判らずに首を傾げたからだろう。確かに、そのままの言葉では意味は分からないだろう。

 しかし、今ならば分かる。

 身体的な変更をしておきながら、きちんと成長に影響しない範囲で元に戻せる保証がないということだろう。更には能力の単純消去も出来ないのであろう。


「今はその意味は理解しなくていいの。でも……謝らせて。ごめんね。無責任な話だけど、君達が黙っていてもらうということでしか、君達のことは守れないの。だから――頼りにしているわ。約束、守ってね」

「……はい!」


 頭に手を置かれたままの頷く彼の目の前に、彼女の右手の小指が差し出される。


「おばさんと約束、出来る?」

「出来ます! お姉さんと約束、守ります!」

「お姉さんって年じゃ……まあ、本当はおばさんでも間違っている年なんだけどね……」


 ふ、と小さく息を漏らし、彼女はライトウ少年が差し出した小指を絡める。



「じゃあ、頼むわね――

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