第260話 過去 08

「お母さん!?」


 幼きライトウ、アレイン、カズマ、ミューズの声が重なる。

 確かに相手はかなり若いが、しかしクロードくらいの子供がいても違和は感じない。見た目の特徴とタイミングからクロードの身内であることは推察出来ていたので、内心のライトウは驚きはしなかった。

 その黒髪の女性――クロードの母親は、顔面を真っ青にさせてクロードの元へと駆け寄った。


「クロード……いつの間に『』を使えるようになっていたの……?」

「んーとね、ちょっと前くらいかなー? あ、お母さんには秘密だって言われていたんだった……」

「誰に? ……って聞く必要はないわね。あの人か……」


 眉間に皺を寄せる、クロードの母親。表情が硬いと先程は思ったのだが、その表情はスムーズに出来ていた。ということは、出来ないのは笑顔だけだろう。


(……そういえば、笑顔がない所もクロードと共通点だな。何か関係しているのだろうか……?)


 ふと疑問点が頭によぎるが、その答えは分からないまま話が進む。

 母親はクロードの頬に手を当てながら訊ねる。


「クロード、この能力のことを他の誰かに話したり、何かしたりした?」

「うん、したよー。あっちではあの白衣の人だけだけど、こっちではそこのみんなに『おちかづきのしるし』をあげたよー」

「『おちかづきのしるし』……変な言葉を吹き込んで……」


 クロードの母親は頭を押さえて、二、三度首を軽く横に振る。実際、本当に頭の痛い思いをしているのだろう。彼女は苦々しい表情を見せていたが、そこで大きく深呼吸すると、優しい声音でクロードに訊ねる。


「そこのみんなには何を上げたの?」

「えっとね……足の速さでしょ? テレパシー能力と刀、あとは努力すればするほど成長する肉体、だったかな?」

「……そんなこと出来るの?」

「うん! 出来たよ!」

「……何ということを……子供が故の想像力なのね……私には戻すのに想像力が足りない、というか、想像力が足りすぎて無理ね……」


 ぶつぶつと独り言を呟くクロードの母親。しかしどんどん顔が青白くなって冷や汗を掻いていることから、彼女が相当焦っているのは目で見ても分かった。


「この子をここで預かってもらって普通に暮らしてもらおうと思ったのは甘い考えだったわね……迂闊、本当に迂闊だわ………………」


 そこで、うん、と一つ頷き、彼女はクロードの額に手を当てる。


「お母さん?」

「ごめんね、クロード」

「おか……」


 次の瞬間、クロードが身体から力が抜けたように女性に身を委ねるように崩れ落ちた。

 いきなりの出来事で呆気に取られているのであろう、黙り込んでしまった周囲の中、


「何をやっているんだ!?」


 幼きライトウが怒声を放った。

 きっとこの時の彼は、突然クロードが襲われたのだと思って激高したのだろう。

 この点は少し誇らしげに感じた。

 クロードのことをただの便利屋だと思わず、入所してくる新しい家族だと思っていないとそんな行動は取らないだろう。


「眠らせただけよ。クロードは少し疲れていたようね」

「嘘だ! さっきまであんなに元気だったのに!」

「……そうね。子供って凄いわよね。あれだけ走り回っていたかと思ったら、いつの間にか眠っているのだもの。――、ね」


 クロードの母親は人差し指をライトウの背部に向ける。

 その指先に導かれるように慌てて後ろを振り向く。


「なっ!?」


 アレイン。

 カズマ。

 ミューズ。


 いつの間にか三人共地面に横たわっていた。

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