第240話 開発 05
「……」
コンテニューは内心で大きく溜め息を吐く。
予想通りだった。
予感というの嫌なものほど当たるというモノだ。
全く。
本当に――本当に、嫌なことを思い出させてきた。
だが、その内心の苛立ちを相手に知らせないようにぴくりとも反応しないように心がけて、表面上は微笑みを讃えたままでいた所、
「踏み潰した……?」
セイレンの言葉に、アリエッタが反応を示した。
「ユーナって……ユーナ・アルベロアのことですよね?」
「旧姓はねー。だからユーナ・ディエルってのが正しいわねー。魔王クロードの母親のことよー」
「それを殺したのが……あんたなの……? でも、七年前って……」
アリエッタが信じられないという表情でこちらを見てくる。
まあ、予想できる反応だ。
コンテニューは笑顔でセイレンに文句を言う。
「こんな所で言わなくていいでしょう。ほら。面倒くさいことになったじゃないですか」
「いやー、つい話の流れでねー」
「完全に途中から気が付いて無理矢理持って行ったじゃないですか」
「てへっ。ばれちった? ごめーんね」
「謝る気なんかさらさらないですね。まあ、僕は彼女に説明する気もさらさらないので、この話はこれ以上は進みませんよ」
「おばさんが変な言動しているーってツッコミ入れてほしかったなー」
「言動が変なのはいつもじゃないですか」
「あたしゃ気まぐれなだけだよー。――ということで、あたしも説明する気ないからねー。アリエッタちゃんは自分で調べて頂戴ねー」
「……っ」
アリエッタが何とも微妙な表情でこちらを見てくる。そんな表情をしても何もしない。だから服を着てそこで黙っていろ――と、コンテニューは内心で毒を吐きながらも決して表には出さず、表面上で変わらず微笑んでいると、
「……分かりました。調べさせていただきます」
アリエッタは止めていた着替えの手を早急に動かして軍服を着こんだ後、前は使用していなかった眼鏡を掛けると、
「失礼します」
と退室して行った。
「……あれだけの変装でバレないのですかね?」
「んー、もう隠す必要とかないから別にいいでしょー?」
「今まではどうやっていたのですか?」
「あははっ。簡単な話だよー」
セイレンはくるくると指先を廻しながら告げる。
「彼女自身が人と関わることを極端に嫌っていたのよー。コンテニューちゃんの罰は本当はアリエッタちゃんの心に深いトラウマを植え付けたようだねー」
「そうですか。それは僥倖ですね」
「本当にアリエッタちゃんのことが嫌いなのねえー」
「ええ。大嫌いです。――さて、そんなどうでもいいことは置いておいて話を戻しましょう」
不毛な会話が続きそうだったのでそこで話を切りかえ、質問をする。
「その……マリー、でしたっけ? 彼女はどうしたのですか?」
コンテニューの問いに「うーん」と唸るセイレン。
「元気だよー、って言ってあげるにはあの子、ちょっとこの前のアドアニアの戦闘から少しおかしくてねー。少しぼーっとしてきているのよー」
「それのどこがおかしいのですか?」
「あの子って部屋のど真ん中半裸ちゃんとは違って、意志たる意志がないからねー。というか無くしたんだしねー」
「意志を無くした?」
「意志っていうか記憶を全部無くして機械みたいになった子だったのよー。だから悩むことなんて絶対有り得ないはずなんだけどねー」
「記憶を……全部無くした?」
先程から物騒な単語が並び立てられている。
意志を無くした。
記憶を無くした。
「それって――貴方が無くさせたのではないのですか?」
「んー……半分正解って所ね。――あ、そうだ」
そう言って彼女は近くにあるキャスター付きの椅子を二つ引っ張ってくると、その一つをこちらに向かって緩やかに投げてきた。
地面をスライドしていく椅子を手で受け止めたと同時に、セイレンの方から続いた言葉が発せられる。
「せっかくだから話してあげましょー。ちょうど今は暇だしねー」
「何をですか……?」
「まあまあ腰をおすえなさいなー。はあーどっこいしょーどっこいしょー」
小気味いいリズムを口で奏でながら座るセイレンに合わせて、コンテニューも腰掛ける。
「何を話してくれるか、教えていただけますか?」
「分かってくるくせにー。ま、いいけどねー」
そうセイレンは、相も変わらず無邪気な笑顔で。
邪気のある言葉を言い放つ。
「話ってのは――あの子達二人を開発した時の話よー」
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