第239話 開発 04

「もう一人?」


 セイレンがとぼけた様子で首を横に捻る。絶対に分かっているはずなのにそんな態度を取ってくるものだから、少し苛立ちを込めて回答する。


「研究室のど真ん中で半裸になっていない方です」

「……言っておくけど、私達の機密性を確保する為に局長からいつもこの場所で着替えるように言われているんだからね」


 アリエッタが言い訳をしているが無視をしてセイレンに問う。


「そちらも女性ですよね?」

「ありゃ。会っていなかったのー? てっきりアドアニアであったとばかり思っていたわー」

「あそこで目撃したのは回収班だけですね。僕は聞いただけです」

「どんなことを聞いたのさー?」

「赤い髪の少女だとお聞きしましたよ」

「名前はマリー・ミュートっていうんだよー。初耳―?」

「……聞き覚えのある名前ですね」

「あらそうなの。どこで知ったの? 魔王関係―?」

「そうですね。魔王クロードの幼馴染でしたっけ?」

「あー、そうだったわねー。よく知っているわねー」

「まあ、短かったですけれど一応アドアニア国の支部長でしたし、そのあたりの事情は、あの魔王の反乱直後に耳に入ってきましたね」


 誰かさんの裏切りと共に――という嫌味は言わないで視線をちらとアリエッタに向けると、彼女は不機嫌そうな表情で押し黙っていた。


「あー、そうそう。そういえばそうだったわねー」


 と、唐突にセイレンが手を打つ。


「コンテニューちゃんってアドアニアの支部長だったもんね。じゃあマリーちゃんと会ったことはあるんじゃないの?」

「……さあ。少なくともアドアニア支部長、そして陸軍元帥コンテニューとしてはありませんね」

「ああ、そん時は魔王にもう撃たれて入院してたからねー。じゃあないかあー……あ、違ったねー」


 うふふ、とセイレンは含み笑いをする。


「マリーちゃんが魔王の幼馴染ってことはもっと昔に会っていたかもねー。というかかもしれないわねー」


 嫌な予感がした。

 しかしコンテニューが止める前に、セイレンは言った。



――時にねー」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る