第219話 撤退 05

    ◆ライトウ





「お前はこの刀を――信用していない」



 キングスレイからの言葉に、ライトウは意識が覚醒した。

 その理由は――怒りだった。

 今までは言われるがままだったが、それだけは我慢ならなかった。


 刀を信用していない?


「そんなわけ……あるかぁっ!!」


 ライトウは腹部に刺さった刀を抜く。

 血液が大量に流れ出るのが分かる。

 それでも意識が飛ぶようなことは無かった。


「俺はこの刀と共に戦ってきた! 俺がこの刀をどれだけ信じているのか分からないくせに適当なことを抜かすなぁっ!」

「叫ぶな。血が足りなくなるぞ」

「関係ない!」


 ギリ、と歯を鳴らし、


「これ以上俺の刀に対する信用を疑うのなら――殺すぞ!」


 ライトウは腹部を貫かれたと思えないほどの怒声を放つ。

 重傷を負ったと思えない程の覇気。


「……ふむ。殺す、か」


 それはキングスレイにも届いた。

 彼は顎に手を当てながら首を横に振る。


「侮辱されたと感じるのはお前が足りていないのだ。色々な意味で。――信じることが足りていないのだ、若人よ」

「足りない……?」

「認めろ。己が未熟さを。認めろ。己が過ちを。さすれば更に強くなるはずだ。それが分からない今のお前では、俺は殺せない」


 そう言って、キングスレイは、ふふ、と短く笑うと、


「この言葉を自分より若い年齢の奴に言うのは二人目だな」


 ――剣を収め、こう不敵に告げてきた。



「だったら強くなれ。私を――いや、



 その言葉と同時。


『ライトウ! !』

「……っ!」


 背部から聞こえた声に、ライトウは従った。

 聞き覚えのあった声だったからだ。


 直後、ライトウの足元に大型の手が滑り込んでくる。

 ジャスティスの手だ。


「カズマか!?」

『無事で良かったよ。さあ、離脱するよ』

「ちょっと待――」


 待て――と言おうとしたが、ライトウは途中で言葉を止めた。

 その視線の先。

 キングスレイ。


 彼は完全に――こちらに背を向けていたのだ。


「……相手にするつもりもない、ということか」


 屈辱だ。

 見逃してもらう、というレベルではない。

 完全に敵と見られていない、という証だ。


 ギリリ、と歯が削れるかと思われるくらいに食いしばる。


「見てろ……っ……」


 ライトウは誓った。

 一度、勝てないとも思ってしまった相手。

 敵としても。

 刀剣使いとしても。


 そんな相手――キングスレイに対して誓った。

 手元の刀を力強く握りしめて。



「俺は必ずお前を――!」

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