第218話 撤退 04
◆カズマ
「僕はもう――誰からも必要とされていないんだ」
――そう呟いた直後だった。
『ッ!』
ガクン、と軽い衝撃が襲う。
それは頭部を破壊された衝撃ではない。
少しの距離を落下した衝撃であった。
「いったい何が……」
カズマが驚きに目を見開き、外部の様子に視線を向ける。
そして気が付く。
相手のジャスティスがいつの間にか距離を取っていることに。
しかも四つ足を付いた状態で。
そこからカズマは瞬時に推察した。
何故だか知らないが、唐突に相手がカズマのジャスティスから手を離し、獣型に変形して逃げたのだと。
逃げた。
何から?
その疑問は――スピーカー越しに聞こえてきた声で解消された。
『カズマ、無事か?』
「クロードさん!?」
クロードの声だった。
間違いなかった。
カズマは咄嗟にジャスティスの操縦桿を握りなおすと、微かに頭部を動かして辺りを探す。
すると、真下に黒衣に黒い羽根を羽ばたかせた少年の姿を発見した。
カズマは全てを理解した。
相手が距離を取ったのは――クロードが助けに来てくれたからだ、ということに。
『動いているってことは意識があるな』
彼は視線をこちらに向けていた。
その声は何処か安心したようであり。
そしてカズマを安心させるような落ち着いた声であった。
「……クロードさん……」
カズマは眼を逸らす。
今更どんな顔向けが出来るというのだ。
クロードはカズマを助けに来てくれた。
しかし、カズマはクロードを助けようとも何とも思わず、コズエの件の真実を知って戦闘を放棄した。
クロードは助けに来てくれたのに。
「僕は……僕は……」
『ああ、すまんが今、耳が聞こえないから何言っているのか分からない』
「え……っ?」
耳が聞こえない?
ということはクロードが何かの能力を使っている?
――いや、違う。
カズマはそこでようやく気が付く。
黒い羽根に気を取られていたが、クロードのその姿がボロボロであったことに。
クロードが傷付いた姿なんて初めて見た。
故に混乱していた頭が更に混乱し――
――ひと回りして、逆に落ち着いた。
故に彼からの指示がすんなり頭に入ってきた。
『だから端的に命令する』
クロードは右方向を指差す。
『ライトウを助けに行け。そしてこの国から離脱しろ。――撤退だ』
「なっ……」
『早くしろ』
撤退という言葉に詰まるカズマに、クロードは矢継ぎ早に言葉を告げる。
しかしそれは――カズマが最も求めていた言葉だった。
『仲間を助ける為に――お前が必要なんだ』
「……っ!」
自然と涙が零れた。
何もない。
何も出来ない。
何もしたくない。
――そう絶望していた彼に、再び役割を与えてくれた。
色々と思うことはある。
撤退についても異議がある。
意義があることも理解している。
考えることはある。
考えなきゃいけないことがたくさんある。
だけど、今自分がやるべきことはただ一つだ。
「分かりました! ありがとうございます!」
返答はない。耳が聞こえていないと言っていたから当然だろう。
そしてカズマは身を翻し、片腕となったジャスティスでライトウを探しに向かった。
仲間を助けるという、クロードから与えられた役目を背負って。
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