第214話 乱戦 25

 クロードが空気を変化させて作った盾は、全方位において展開されているわけではなかった。


 一つは空気の通り道の二つの穴。

 ここは銃弾を通過していたから言わずもがな。


 そしてもう一つ。

 ことからも分かる。


 クロードの足元には盾は張られていなかった。


 その点をピンポイントで突いた攻撃。

 予め準備し、誘導し、そして起爆する。


 ――地雷。


 コンテニューの目的は、クロードを地雷を埋めてある場所まで誘導することであったのだ。


 足元が盛り上がり、熱波が襲ってくる。

 だが、それが身体に襲い掛かってくる直前に、


「くっ」


 咄嗟にクロードは跳ねると、足元と自分の間にある空気を変化させて盾を生成させる。

 下からの衝撃にも何とか耐えるが、流石に全ての衝撃を吸収することは出来ず、クロードの身体は空高く運ばれていく。


「ぐ、うううううう」


 熱波に乗る様に上昇していく。

 見えない盾で抑え込んでいるが、上部は開いているのでどこまでも上昇は続く。もし上部を塞いでしまったのならば、下からの急激な上昇の際にぶつかって頭蓋にダメージがいってしまっていた可能性も十二分にあるだろう。そこまで考えていなかったため、無意識に上部の盾を解除していたのは正解だったのかもしれない。

 しかし、上昇するにあたっての勢いは非常に強く、急激な気圧の変化に耐えられなくて鼓膜が破れたのであろう、唐突に耳が全く聞こえなくなった。いや、その前の爆撃音で潰れたのかもしれない。

 いずれにしろ、突き刺すような急激な痛みがクロードに走る。

 久々の痛みだ。

 魔王になってから初と言ってもいいだろう。

 なので忘れていた。

 傷つけられれば、こんなにも痛いのか、と。


「……っ」


 痛みで叫びそうなことを我慢しながら、耳を思い切り押さえる。

 ぐるぐるする。

 吐き気がする。

 目の前が廻るような錯覚をさせられる。

 足元は未だに急上昇を続けている。


(落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け……落ち着け……落ち着け…………落ち着け…………)


 頭の中で言葉を繰り返し述べ、その言葉通りに少し落ち着いてくる。

 同時に、爆風による上昇も落ち着いてきた。

 痛みにも慣れて来たので思考も回せるようになった。


(――どうする?)


 故に考える。

 ここからは重力で落ちて行くだけだ。

 ただ重力で落ちて行けば相手の意のままだ。ここから潜伏している兵士達の恰好の的だろう。


 ――ならば以前のように黒い翼へと変化させ、空を飛んで行こうか。


 クロードは即決した。

 痛みを抱えている様子は隠し、以前のように空を飛んで森を蹂躙して行く。

 そうすることで、何もクロードには攻撃が効かない――そう思わせることが出来るだろう。


 そう上昇が終わり、これから下降するであろう、その頂点に至った。


 その瞬間だった。



「――『』、ですよ」



 聞こえないはずなのに、確かにそう聞こえた。

 聞こえた気がした。

 だから無意識に声がしたような方向を見た。

 上だった。


 そこには――


 分離した小型のコクピット。

 そこから身を乗り出した彼の手には拳銃が握られていた。


 先にも述べたが、上昇を続けていた際にクロードは無意識下で上部の盾を空気に戻していた。

 つまり――そこには何もない

 現在、クロードとコンテニューとの間に銃弾を防ぐ盾は存在していない。

 何でも攻撃を通してしまう。


 例えば――


 その危機的状況を、クロードが完全に察する前に――




 クロードの腹部に、一発の銃弾が撃ち込まれた。

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