第213話 乱戦 24
ジャスティスを破壊する。
いつもの宣言を告げた直後、彼は一歩踏み出した。
ゆっくりと。
ゆっくりと。
前へと進む。
遅々としているのは、余裕を見せているパフォーマンスの為だけではない。
クロードは前へ進む度に次のように能力を使用している。
半径五メートル程度の空気を一回り大きな球形の盾に変化させる。
約二メートル進む。
先より小さい半径二メートル前後の球形の盾を生成する。
先に作っていた半径五メートル程度の盾を空気に戻す。
再び現在の位置から半径五メートル程度の空気を球形の盾に変化させる。
――その繰り返しだ。
その際に周囲の紫色の空気を解毒化することも忘れずに行う。
一歩。
また一歩と。
彼は進んでいく。
その間にも銃撃は降り注ぐ。
紫色に包まれているはずなのに、狙った様に盾に当たって行く。
気のせいか後方に銃弾が集中しているようにも思える。
(もしかすると、球状になっている中に煙幕が溜まっている状態で進んでいるから、気流の流れが変化して俺の動きが見えているのかもしれないな――)
そう考えた――その時。
パチュン、と。
少し擦れた音と共に、クロードの足元に銃弾が埋まった。
「盾を……貫通した?」
思わず足を止め、足元を見る。
確かに、銃弾がそこにはあった。
クロードの周囲は透明な盾で覆われている。
生成方法も先に述べた通りで、クロードの足元まで辿り着く要素がない。
攻撃が入る余地はない。
「まさか……?」
クロードは振り向く。
そして気が付く。
自分でも知らなかった――文字通り穴があることに。
本当に小さい直径五センチメートル程の穴が、二つ開いていた。
加えてその場所のみが明らかに空気の流れが違ったことに。
物理の盾。
もしそれが全方位を覆っていたならば、完全なる密閉空間になってしまう。
故に自分でも無意識に作っていたのだ。
空気の通り道を。
「ッ!」
クロードは慌てて右手を振る。
すると強烈な風が起こり、一気に煙幕が晴れていった。
――空気を突風に変化させたのだ。
だが視界が晴れた瞬間。
『――狙い通りです』
その声は先程まで相対していた者――コンテニューのモノだった。
声の主を認識すると同時に視認する。
四メートルほど先。
そこにあった。
――剣の切っ先をこちらに向け、突撃してくるジャスティスの姿が。
「くっ!」
咄嗟に、クロードは思わず足を止めたまま目の前のジャスティスへの意識を集中させた。
五メートル以内。
ならば能力が使える。
そう思ったのと同時に――ボシュッ、という音が聞こえた。
それが何かを理解する間もなく、彼は目の前のジャスティスのボディをクッキーに変化させた。
あの時。
この場所で。
初めて魔王としての能力をした時と同様に。
咄嗟ゆえに、同じ行動をしてしまった。
(――何で咄嗟に出てくるのがクッキーへの変化なのだろうな?)
そう心の中で疑問を持ったのと同時。
ドガシャアアアアン、と目の前のジャスティスは自重に耐えられず倒壊した。
破片はクロードが元々張っていた盾に弾かれ、その場で弾け飛ぶか、後方に流れていく。
(わざわざ攻撃せずとも、ただそのまま迎撃すればよかっ――)
――クロードの脳裏に違和が生じる。
違和。
それはコンテニューの『狙い通り』という言葉。
その割には呆気なさすぎる上に、大した対応もしていない。
何も相手の狙い通りになっていない。
絶対に何かがあるはずだ。
相手が狙っていた何かが。
この場所で攻撃を仕掛けたのも――
(――場所?)
ふと視線を下げた。
故に気が付けた。
自分の足元の違和に。
周囲と土の色が違う。
更には綺麗にならされていた。
つまりそれは――土が掘り返されていた証。
何のために掘り返したか?
その理由を、彼はすぐに理解した。
理解させられた。
――次の瞬間。
彼の足元が爆発した。
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