第208話 乱戦 19

「あ……あ……あ……」


 息が切れるまで叫んだ。

 他に何も気を配れなかった。

 だから気が付かなかった。


『気ガ済ミマシタカ?』


 スピーカーからの声でようやく少し目の前の光景を認識することが出来た。

 いつの間にか敵の緑色のジャスティスは獣型から二足歩行の人型に戻っており、カズマのジャスティスの頭部が掴まれていた。


『マダ動ケルノニドウシテ動カナインデスカ?』

「……」

『戦意喪失デスカ。デハ終ワリニシマショウ』


 相手のジャスティスの力が入るのを感じる。

 メキメキ、という音が聞こえる。


 しかし。

 もう既にカズマはどうでもよかった。


 最愛の妹を殺したのは自分だったことに気が付いた。

 何より、それをこの戦場で気が付いた。

 気が付いて、一度、戦闘を放棄して呆けてしまった。

 最後が何よりショックだった。


 結局、自分は何をやっているのだろう。

 何でこのタイミングで知ってしまったのか。

 ――ダメージを与えられたからだ。

 相手の思考を読み取れずにダメージを与えられてしまったのか。

 ――慢心していたからだ。

 何故慢心したのか?

 ――ジャスティスへの復讐心が薄れていたからだ。


(……クロードさんはこんなことになることが分かっていたんだろうな……)


 だからコズエのことについて言わなかった。

 ずっとジャスティスが悪いと言い続けた。

 だが、彼は知っていたはずだ。

 知っていて、彼を復讐に走らせたのだ。

 それはどうでもいい。

 むしろ思考をそちらに向けてくれたことに感謝する。

 しかし、それ故に気が付いてしまったカズマは、クロードの意図から外れてしまうことになってしまうだろう。

 もしかしたら心のどこかで気が付いていたのかもしれない。

 だから復讐心が薄れていたのかもしれない。

 そんなカズマなんか必要ない。

 不要だ。

 クロードだって見捨てるだろう。

 不要な人間を傍に置いておくほど、彼は有情な人間ではない。


 もう頭はぐちゃぐちゃだ。


 何が良くて。

 何が悪くて。

 何が正しくて。

 何が間違っていて。

 何を信用していいのかが分からない。


 でもこれだけは分かっている。

 分かってしまっている。



「僕はもう――誰からも必要とされていないんだ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る