乱戦 -ミューズ-

第209話 乱戦 20

   ◆ミューズ





「これはまずいっすね……」


 ミューズは段々と冷や汗が止まらなくなってきていた。

 一五分のタイムリミットが定められてから、一〇分以上経過している。

 ここまで来ればある程度、察しが付いてくる。


「これ、マジに洒落にならないっすよ……」


 一分どころか一秒たりとも手を休めることが出来ない。

 ずっとキーボードを叩いている。

 それでも間に合いそうもない。


(これだけ効率的にやっているのにマジで一秒単位でギリギリとか……完全に無理難題言われているとしか思えないっす……)


 ギリリ、と憎しみを込めて一瞬、ちらと一面のモニターのウサギを睨み付ける。

 先程から煎餅のバリバリとした音を鳴らして集中力を削いでくるが、それ以外の映像は変化していない。

 変わらないことに少しイラつきを感じる。

 文字通り、高みの見物をされていることに。

 だが、イラついている場合ではない。


『ほらほらー。残り二分だよー』

「……」


 イラついている場合ではないと思ったばっかりなのに、イラつかせるような言動をされて額がピクリと動いてしまった。

 しかし、相手が言うようにあと二分しかない。

 この段階で明確になったことがある。


(これは本当にギリギリっす……)


 このまま並行で進めれば、どちらとも一秒単位でギリギリに解除できる。

 だが、一つでもミスったら終わりだ。

 どちらかに集中すればリカバリも可能だ。

 リスクを計算したらやるべきことは決まっている。

 どうする。

 どうする。

 どうする――


「……」


 残り一分の段階で、ミューズは決断した。


 そして一分後。


『はい。時間だよー』


 スピーカーから聞こえるセイレンは、あっけらかんとした声で告げる。



『ということで爆弾は見事解除おめでとー。

 だけど――のねー』

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