第205話 乱戦 16

 いつもの口上を述べたと同時に、カズマはジャスティスを前進させ、相手との距離を一気に詰めた。

 その際にジャスティス用の大きな刀を振りかぶることを忘れずに。

 ガキィン、と甲高く金属音が響く。

 獣型のジャスティスはその右腕――『右前足』という表現が正しいだろう、そこにある爪で受け止めていた。やはり武器は同じ素材で出来ているのだろう。

 すかさずカズマは刀を引き、バックステップで距離を離す。

 が――


「っ!」


 獣型ジャスティスがそれよりも早く距離を詰めてくる。

 左前足の爪が眼前に迫る。

 咄嗟に刀で防ぐ。


「ぐぅっ……!」


 衝撃に思わず唸り声を上げてしまう。

 後方に吹き飛ばされ、道端にあった自動車などを弾け飛ばしていくが、それ故に多少は衝撃が緩和されたようで、何とかバランスを取って転倒はせずに済んだ。


「何てパワーだ……っ」


 刀が折れていないのが不思議なくらいだった。

 数多くのジャスティスと戦闘したカズマだからこそ分かった。


 海に潜れる機体より。

 空を飛べる機体より。


 単純なスピードとパワーがある目の前の機体が、何よりの強敵であるということを。


(だけど――策が無いわけではない)


 カズマは少しずつ後退する。

 真っ直ぐにではなく、蛇行しながら。


『逃シマセン』


 獣型のジャスティスが一気に距離を詰めてくる。

 カズマは右後方に避ける。

 相手の攻撃は空振りする。

 だがすぐに四つ足で踏ん張り、再びカズマに襲いかかってくる。

 それもまた、カズマは右後方に避ける。


「くっ……」


 苦しんだ声を放ちながら、徐々に、徐々にだがカズマのジャスティスは高層ビルの方に寄っていき、ついには裏路地にまで追い詰められた。狭い路地はジャスティスが横に並べるだけのスペースはない。

 カズマのジャスティスは後ろ向きでその路地に入り、どんどん奥に入って行く。

 やがて、獣型ジャスティスも路地の入口までやってくる。


『終ワリ、デス』


 獣型ジャスティスは一直線に飛び掛かる。

 ここは一直線だ。

 今度こそ左右に避けることは出来ない。


 絶体絶命――


(――掛かったっ!!)


 ――ではなかった。


 これらは全てカズマの計算通りだった。

 細い路地裏は相手の機体の一直線の飛び込みを誘うため。

 加えて――


「うお、おおおおおおおっ!」


 カズマは咆哮し、ジャスティスを宙に舞わせる。

 しかしただ跳ねるだけでは相手の機体が真下に来た時に下降出来ずに通り過ぎることとなってしまう。

 その為に狭い路地裏――ビルに拳を突き立てることで上昇をセーブ出来る場所に来たのだ。


 奇しくも、ライトウとカズマの二人は『ビルを利用する』という点では一致していたが、その用途は真逆であった。

 ライトウは高さを稼ぐために。

 カズマは高さを抑えるために。


「ぐ、うううううううっ!」


 カズマが自機の左拳をビルにめり込ませる。その振動の大きさ故に自然と声が出てしまうが、機体は想定通りの高さになっている。

 やがて上昇の速度は抑えられ、ついには止まる。

 十分な高さはある。

 後はタイミングを合わせて落下しながら刀を突き立てるだけだ。


 そう。

 獣型のジャスティスの弱点は上部だ。


 ジャスティス全般に言えるが、背部に対しては手も届かなければカメラもない。

 故に弱点となり得る。

 そして、四つ足で前傾姿勢となる獣型の背部は、上部となる。

 一直線に低めで飛び込んできている今の状態では、完全な弱点をむき出しにしているということだ。


「うおおおおおおおおおおおっ!」


 咆哮しながらカズマは左拳をビルから抜き、右手の刀を下向きに落下挙動に入る。

 ちょうど真下に相手ジャスティスが通過するタイミングだ。

 何もかも想定通り。

 予測通り。


(――予測通り?)


 ふと。

 カズマの脳裏に疑問がよぎった。

 あまりにも予測通りにいきすぎている。

 背部が弱点であるなんて予測は容易だ。


 その弱点をそのまま放置するだろうか?



 ――そして。

 その悪い方の予想が当たることとなる。

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