乱戦 -カズマ-

第204話 乱戦 15

     ◆カズマ




『……カズマ。俺にはキングスレイの方をさせてくれ』

「最初からそのつもりだよ。というかそっちを任せたい。こっちは獣型のジャスティスに集中させてもらう」

『了解した』


 ライトウの返事をスピーカー越しに聞くと、カズマは真正面の四足歩行の獣型になった緑色のジャスティスのみに意識を集中させた。

 というより背部に気を配っていられるほど余裕が無かった。


(……先程の攻撃、全く見えなかった……)


 可翔翼ユニットを破壊された一連の流れ。

 全く持って予想だにしていない動きだった。

 四足歩行になっただけ。

 それだけだと思っていた。

 だが、先にクロードの方に向かった一機の、あの速度。

 目の前の一機の、浮上していたカズマの背まで辿り着いた、あの跳躍力。

 理由は察せられる。


(二足より四足の方が単純な地面への力の掛け方が従来のジャスティスの二倍――という理由じゃないね)


 そんな生半可な理由ではない。

 多少ならば変化はあるだろう。実際に生身で四つ足になって浮き上がろうとしてみれば分かるはずだ。片足で跳ねるのと両足で跳ねる違いを見てもよい。二倍の距離を飛べる訳ではないことが分かるだろう。

 故に結論は次のようになる。


(あのジャスティスの脚力が異常だということだ)


 通常のジャスティスよりも大幅に力が入る様になっている。加えて、恐らくだがボディもかなりの軽量化が図られているだろう。

 それだけで察することが出来ることが一つある。


「貴方はきつくないのですか?」


 カズマは目の前のジャスティスにそう問い掛けた。


『キツイ?』

「そのジャスティスに乗っていると、身体に負荷をかなり強いるのではないのでしょうか?」


 可翔翼ユニットを使用した時は方向性としては上方向しか急激な上昇、下降は行わなかった。加えて内部で気圧管理機構があったのか移動時の衝撃などは何も感じなかったが、それは徐々に加速することによってのものである。実際、落下挙動になった際には上に引っ張られる感覚に引っ張られたので、恐らく急激な変化には対応できないと思われる。

 しかし相手のジャスティスは上下左右に急激に揺さぶられるような動きになると推定されるので、更なる厳しさが襲っているのではないかとカズマは考えていた。


『負荷ハアリマスヨ。ソレガドウシタノデスカ?』

「いえ、奪っても使うのは厳しいですね、って思っただけです」


 乗っ取って、奪って、力にする。

 この悪魔の力を取り入れてきた。

 ブラッドとの戦いでジャスティスを手に入れ。

 ヨモツとの戦いでオプションを手に入れた。

 次は上位機体を手に入れる――と思ったが、どうやら使えそうにないらしい。


『……奪ウ?』

「ええ。貴方を倒して少しでも役に立ちたいのですよ。クロードさんの」

『……クロード……』


(……あれ?)


 カズマは違和感を覚えた。

 流暢な言葉遣いだった方のジャスティスの搭乗者は明らかにクロードに恨みつらみがある様子だったが、


(こっちも何かありそうだな……)


 しかし、だからどうということではない。

 言えるのはただ一つ。



「これから――ジャスティスを破壊します」

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