乱戦 -ライトウ-

第200話 乱戦 11

    ◆ライトウ





『剣豪』キングスレイ。

 銃が台頭して行く中で、剣一つで戦場を切り開いた人物。

 刀剣を嗜む人は必ず彼の名を聞く。

 だからこそ、ライトウは複雑な気持ちだった。

 キングスレイはルード国の実質的なトップだ。

 剣は政治や国籍など関係なく賞賛すべきだ。


 だが――敵であることは間違いがないことだ。

 目の前の彼が剣を抜いているのであれば、それは自分達にとっての敵なのだ。


「護衛君、ここは私と君とで相手を撃破すべきだと考えているのだが、それでいいかね?」

『……ハイ』


 戦場のど真ん中なのに、悠々と歩を進めながら彼は緊張感のない声を放つ。

 しかしその声とは別に、彼が放つオーラは凄まじかった。

 流石に見た目では老いを感じさせる顔ではあるが、肉体は俄かに老齢とは信じられない程に鍛えられていることが服の上からでも分かった。


「と、その前に――」


 突如、彼の姿が消えた。

 いや、消えたというのは錯覚だ。

 左方にあるビルの隙間に入って行ったのが目の端に見えた。

 そして次の瞬間――爆発音が響いたと同時に、裏通りから戦車だった思われる鉄の塊が飛び出してきた。

 その後ろから、ゆったりとした足取りでキングスレイは再び通りへと姿を見せた。

 きっとあれは『正義の破壊者』戦車なのだろう。

 それを裏付けるように彼は言葉を紡ぐ。


「まだいたようだね。君達以外は殲滅したかと思ったが、甘かったようだ。私も衰えたものだな」

「殲滅……だと……? そんな訳がない! 通信でそんな情報は入ってきては――」

『きっと妨害されていたんだよ。その情報についてはきっとミューズの耳まで届かなかったってのが正しいだろうね。あれを見るとそっちの方が正しいと思う』


 カズマがまた冷静な声でライトウの疑問に答える。


『とすると……ミューズが何者かにハッキングを仕掛けられている可能性が高いね。元々アドアニアはルード国による偽りの国だったわけだから、あのメカニックルーム自体が相手の支配下にあるのかもしれない……現にミューズからの通信がさっきから来ない』

「そういえば……おい、ミューズ、聞こえていたら応答してくれ!」


 ライトウも耳元に手を当てる。

 しかし、ミューズからの返事は来ない。


『まずいね、一刻も早く様子を見に行きたいところだけど……』

「ああ。させてくれない様子だな……」


 ライトウの頬に一筋の汗が流れる。

 完全に憔悴している。


 前方には『剣豪』キングスレイ。

 後方には獣型のジャスティス。


 どちらも戦闘力が未知数だ。

 勝てるビジョンが浮かび上がってこない。


「……カズマ。俺にはキングスレイの方をさせてくれ」

『最初からそのつもりだよ。というかそっちを任せたい。こっちは獣型のジャスティスに集中させてもらう』

「了解した」


 ライトウは刀を構え、一歩前に踏み出す。

 するとキングスレイは眉を上げ、


「ほう。私の相手はサムライ ライトウの方か」

「不服か?」

「私はジャスティスと戦闘したことがなかったからそちらとしてみたい、というのは本音であったが、まあ不足ではないだろう」


 キングスレイは口の端を上げる。


「そっちこそ、人間相手で大丈夫か? ずっと最近はジャスティスを相手していたのだろう?」

「大丈夫だ。それに――」


 グッとライトウは刀を握る力を強くする。


「あんたは俺の大切な人々を奪っていったルード国の大将だ。だから復讐の対象だ」

「ふむ、復讐か。――まあいいだろう」


 キングスレイは剣先をこちらに向けて告げる。


「その復讐心だけで私を殺せるものなら殺してみろ。来い」

「言われなくても!」


 ライトウが唸り声を放ちながらキングスレイに対して攻撃を仕掛けて行った。

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