第197話 乱戦 08
(――速い!)
ライトウは驚愕に身体が動かなかった。あの獣型のジャスティスは今まで見たどんなジャスティスよりも速かった。きっと四足歩行になりその分、前への推進力が付いたのだろう。その代わり、蹴った地面は有り得ない程に陥没している。
『っ! マズい! クロードさんの所には行かせない!』
カズマが焦燥の声を放つ。いつのまにやら可翔翼ユニットも起動させて高度を上げ、既に先のジャスティスの背を追っていた。
だが――
『――サセマセン』
バキリ、と鈍い音が上から聞こえて来た。
同時に、バラバラと欠片が落ちてくる。
何の欠片か?
――カズマのジャスティスの背にあった可翔翼ユニットだった。
浮上して結構な高さにいたカズマのジャスティスの背から、残った緑色のジャスティスがもぎ取ったのだ。
その緑色のジャスティスもいつの間にか獣型になっていた。
しかしその背などに空へ飛び立つためのオプションは付いていない。
つまりあのジャスティスは――単純な跳躍力でカズマの元まで辿り着いたのだ。
『グ……ッ!』
カズマがバランスを崩しながらも、片手を付いて地面に着地する。可翔翼ユニット以外にはダメージはないようだ。
一方で緑色のジャスティスは四足で地面に華麗に着地する。
「どんな跳躍力だ……っ」
『やはりただの跳躍であそこまで来たんだね……』
ライトウは刀を構え、カズマはライトウの近くまで機体を移動させる。
獣型のジャスティスまでの距離は一〇〇メートル以上あるだろう。
だが、その距離など無駄だ。
何故ならば相手はそれだけの距離を一瞬で詰め寄れるだけの脚力がある。
『これが、陸軍が隠していたジャスティスの最終兵器か……』
「油断するな、カズマ」
『ええ。流石に簡単な相手ではないことは分かっているから、二対一が卑怯だとかは言わないよ』
ずっとカズマもライトウも、多対一での戦闘はやってきたことがあるモノの、こちら側の人数が多い状態での戦闘はしたことが無かった。
しかしこの相手。
今までのジャスティス相手とは訳が違う。
「行くぞ、カズマ。連携は初めてだが一緒に――」
「――うむ。では敢えてその言葉は俺が口にしようではないか。
二対一は卑怯だ。『
老いを感じさせる渋い声ながらも張りのある声。
それは後ろから聞こえた。
その声に反応して思わず振り向いたライトウは、
「……っ!?」
言葉を失った。
背後にいたその人物について、ライトウは見覚えがあった。
ルードの軍服を着た、一人の老人。
だが老人といっても厚い胸板にがっしりとした足が、未だに現役でも行ける旨を知らせてくる。刻まれた皺は彼の経験の高さを如実に物語っていた。
剣を握る人間ならば誰でも必ずその名を聞いていた。
剣一つで戦車を切り、弾丸を切り、そしてあまつさえ一人で戦争を終わらせたと噂される人物。
剣に愛されたとしか思えない人物。
別名――
「『剣豪』――キングスレイ……だと……ッ!」
総帥 キングスレイ・ロード。
ルード軍最高司令官であり、実質のルード国の長たる彼が、戦場となったアドアニアの中心都市で剣を携えてゆっくりと歩みをこちらへと進めていた。
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