第196話 乱戦 07
ご名答。
その回答をしたのはカズマではなかった。
だがカズマと同じようなスピーカーを通した声。
発信源はライトウ達の背後からだった。
慌てて振り向くと――
「っ! お前達は……っ!」
ライトウは目を見開き、ギリ、と歯を食いしばる。
見覚えがあった。
忘れるはずが無かった
おおよそ一〇〇メートルほど先。
そこにいた。
緑色のジャスティス。
しかも二機。
あの時と同じ。
――アレインが殺害された時と同じで。
『――落ち着いて、ライトウ』
ライトウが足に力を入れたのと同時に、カズマのジャスティスの腕がそれを遮った。きっとすぐに斬りかかろうとしたのを察知したのだろう。
出鼻をくじかれたライトウは睨むようにカズマに視線を向ける。
『何故止める? ――って顔しているんだろうね。ちょっと気になることがあったからだよ』
「……気になること?」
『ライトウ。今日は何体ジャスティス倒した?』
「三機だ。それがどうした?」
『僕は五機。つまり――ミューズが告げた八機は既に破壊している上に、この二機のジャスティスについて一切情報が入ってきていないってことだよ』
「……っ」
ライトウの頬に一筋の汗が流れる。
冷や汗だ。
誰にも――機械にも察せられずに、あの二機のジャスティスはこの場にやってきたのだ。
だが、そうなれば声を掛ける必要などないだろう。奇襲すればいいのだから。
何故そうしない?
そのことについて考えた時、相手の奥深さに恐怖した。
何があるか分からない。
であればむやみやたらと突っ込むわけにはいかない。
「……分かった。すまない」
ライトウは足の力を抜き、しかし緊張感は残したまま刀の柄に手を掛ける。
カズマはそんなライトウの様子を察知したのか軽くジャスティスの首を上下にさせた後、緑色のジャスティスに声を掛ける。
『どうやって貴方達は隠れていたのですか?』
『カクレテイタ? ソンナコトヲスル必要ハナイデショウ』
(……あれ?)
ライトウは違和感を覚えた。
カズマの問いにカタコトで返答がきた。
だが先程の『ご名答』はカタコトではなかった。
つまり片方がカタコト、もう片方は普通に話せるという違いがある。
『余計なことを話さないことね。これ以上は相手に何も教えなくていいわ』
ライトウの疑問を後押しするように相手から流暢な言葉が聞こえてくる。また口調からも片方は女性である可能性が高いことが分かった。偽っている可能性もあるが。
『……分カリマシタ』
『そう。いい子ね。――さて』
緑色のジャスティスの左にいる方が、こちらに向けて片手を突き出す。
『サムライ ライトウとジャスティス乗り……あなた達が『正義の破壊者』の最高戦力? そうは見えないけれど』
『違いますね』
『ん……?』
『最高戦力は僕たちではないですよ。もっと強い人がいます』
カズマの言う通りだ――とライトウは同じ思いを抱いていた。
確かに刀でジャスティスを切断できる自分や、訓練されているであろうパイロットを凌ぐ操作力でジャスティスを動かしていとも簡単に敵を薙ぎ払っていくカズマは、相手にとっては脅威となるだろう。
しかし、それでも勝てる気がしない。
そもそも勝てる方法が分からない。
それが彼――クロードだ。
と、そこでライトウはふと思い出す。
「カズマ。そういえばクロードがどこにいるか知っているか?」
『クロードさんは自分の家があった荒れ地にいるよ。そこで陸軍元帥のコンテニューと対峙している』
「何っ!? アレインを殺したあいつと……っ?」
ライトウの声が怒りに染まり、殺気が見るからに放たれる。
それを察知したのであろう、カズマが制止の声を掛ける。
『馬鹿なことを考えないでね、ライトウ。クロードさんがいればそんな奴なんて――』
『……ク……』
その時だった。
『クロード……クロード……クロード……』
緑色のジャスティスの方から呪詛のような言葉が聞こえた。
恨み。
憎しみ。
屈辱。
全てが入り混じった声と共に、左の方の流暢に話していた方が乗っていると思われるジャスティスが、頭部を抱え込んでゆらゆらと揺れ始めた。
『クロード……クロード……クロード……クロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロードクロード――クロオオオオオオオオオオオドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』
ガシャン!! と。
唐突に左の方のジャスティスから悲鳴に近い慟哭が響いたのと同時に、二足歩行型であったジャスティスが――変形を始めた。
前かがみになって両手を地面につける。
そのついた両手がしっかりとジャスティスの巨躯を支えられるように広く平たい形に変化し、その指は爪のように鋭く尖る。
その姿はまるで――野生の獣のよう。
四足歩行の機械の獣が、目の前にいた。
『殺してやる殺してやる殺してやるううううううううううううううううううううっ!!!』
獣型になった緑色のジャスティスは野生のように雄叫びを上げるとその身体を翻し、あっという間にその場から離れて行った。
本当にあっという間だった。
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