第182話 故郷 05
最初から失敗する会談。
理由はルードがいるから、敵対するウルジス――『正義の破壊者』とは組む選択肢など存在していない。
「じゃあやる意味ないじゃないっすか! その会談なんか!」
ミューズが激高する。
無理もない。
彼女はこの会談を設定するにあたって相当な苦労をしてきたのだ。
その結果が無駄と言われてしまえば怒りを覚えても仕様がないだろう。
怒りで頭の回転が鈍っているからこそ、普段は言わないような先のような言葉が出てくるのだ。
クロードは極めて冷静に回答する。
「会談に意味がないのは確かだ。だが、ウルジス側からはその会談の事前中止が出来ないんだよ」
「何故っすか!? あっちが罠を仕掛けている気がまんまんならばこっちから拒否すればいいじゃないっすか!」
「理由はただ一つ。――ウルジスがアドアニアに対して過去に平和協定を破棄したことがあるからだ」
そう。
唯一の負い目にして最大の弱点。
ウルジスは一度アドアニアを見捨てているのだ。
「ウルジスの事前の交渉中止はそうでなくても破棄と捉えられ、国際的な信用を無くす。だからこの会談を受けざるを得ない」
「罠だと分かっていてもっすか?」
「罠だと分かっていたも、だ」
クロードの言葉に明らかに落胆した様子を見せるミューズ。
会談をセットしたことが、結果的に窮地に追いやられてしまったという事実があるのだが。
「……だが」
と、そこでクロードが続ける。
「当然、このままで終わるはずがないと思っているよな?」
「え……っ?」
「会談はやるが、相手の思うままにさせない。これが俺達が出来る最善策だ。既に手は打ってある。――と、そろそろだな」
クロードは時計にちらと目を見やると、
「ミューズ。インターネットでウルジスに関してのニュースを調べてくれ」
「ウルジスのニュース? 分かったっすけど……」
彼の言葉に眉を潜めつつ、いつの間にか手元に用意したノートパソコンにて言われたように調査する。
すると――
「あっ!」
「どうしたんだ?」
「ライトウもこれを見てくれっす!」
彼女はノートパソコンの画面をライトウに見せる。
そこに映し出されていたのは、とあるニュース。
『ウルジス国王 アドアニアとの同盟交渉を行うことを発表』
「やはりそうしますか」
カズマが顎に手を当てながらそう唸った。
その反応にミューズが「どういうことっすか!?」と問うと、彼は一つ首を縦に振って答える。
「この会談を正式に公にすることで、新しく二つの利点が生じます。一つは相手が会談に臨む前に破談にすることが出来なくなった、ということです」
「それはつまり、ルードが表立った事前介入が出来なくなったってことっすか?」
「その通り。そして二つ目は――仮に交渉が色んな意味で破棄された時に効果を奏する、ということです」
「交渉が破棄された時……」
ミューズは数秒ほど眉間に皺を寄せると「……あ、そういうことっすか!」と少々嬉しさを含んだ声で手を合わせる。
「宣言したことであちらも受けたことを世間に公表されたことで、破棄なんて行為が出来辛くなったっすね。その上で破棄をすることを選択すれば、上手くやらない限り批判の対象はアドアニアに向くことが見えているからっす。一方で何らかの方法で交渉出来ないようにするという選択をした場合も批判はアドアニアにいくっすね」
「そう。交渉が破棄されてもただでは転ばないのが、先の策です」
「――加えて」
クロードが腕を組みながら言葉を挟む。
「先の二つに関わるが、もう一つだけメリットがある」
「もう一つ、ですか……」
何だろう、と思案顔になるカズマにクロードは答えを続ける。
「そうだ。この時期に公表したが故に――ウルジスと繋がっている俺達も、堂々とアドアニアに入国することが出来るようになった」
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