第175話 苦心 11


「……普通に考えればそうだな」


 クロードも薄々は感じ取っていた。

 相手は挑発を繰り返していた。

 闇討ちをしなかった。

 この事実から導き出されるのは、先のカズマの結論だ。


「勢いに乗っている『正義の破壊者』を真正面から潰せば、それは逆にルード国の追い風となる。逆にそうでなければ、卑怯な手を使ったと捉えられ、完全なる追い風とならない」

「だからこそ、ジャスティスが勝手に捉えたアレインを、コンテニューは殺害したんですね。――

「ああ。きっと意思疎通が図れていないのだろうな」

「成程……だからカタコトだったのか……」

「ん? カタコト?」


 クロードの目が少し大きく開かれると、カズマは「そうです」と頷く。


「緑色のジャスティスのパイロットは男か女か分からないという説明はありましたが、それに加え、どこか言語に不慣れな様子――というか、たどたどしい様子、と言った方が正しいですね」

「たどたどしい……」


 顎に手を当て、クロードは考える。


(ルード国以外の人間が乗っている? もしくは言語を発するのに難しい状況? ……いずれにしろ、まだ何も分からないな……)


「分かった。これであの時の状況は理解した。ありがとう」

「いえ……結局アレインの遺体は回収できず、相手のジャスティスに隠されたモノも不明で――」

「いいや。あそこではあれが最善だ。お前のジャスティスを真正面から倒せる何かがあったのだろう。ここは一度引いておくのが正解だ」


 その何かが全く分からない。

 未知の恐怖。

 一度引けばいい。


「きっと相手は録音や録画などをしていただろう。その中で逃亡でも撤退でもない、という言葉を引き出したことは確かな成果だ。――よくやった、カズマ」

「……っ」


 感極まったように言葉が詰まるカズマ。

 彼のそんな様子を横目に、クロードは立ち上がる。


「さて、そろそろ自室に戻ろうとするか。一時間には満ちていないが、そろそろライトウも頭が冷えたことだろう」

「……はい。そうだと思います。クロードがそう言うのならば」

「……」


(何か微妙にカズマの中での俺に対しての尊敬の意? みたいのが上がっていないか? 別に何もしていないのに……)


 クロードは少し困惑した様子で部屋を出る。

 その後ろをカズマは付いていく。

 まるで――クロードから何かを学ぶかのように、同じ所作で。

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