第174話 苦心 10

    ◆



「ようやく頭が冷えたか、カズマ」

「ええ、やはり気が付かれていましたか」


 アレインの部屋にカズマを招き入れて中央の椅子に座るなり、クロードはそう告げた。


「復讐心のみで周囲を省みずに突っ込んでいたこと、申し訳なく思います」

「残念だな。それの方が思考が一直線でジャスティスのエースパイロットとしての素晴らしさを発揮できていたのにな」

「そこは大丈夫です。決してコズエを殺された恨みを忘れたわけではないですから。ただ、少し日常的な方に思考を回すことが出来るようになっただけで、戦闘中は真っ直ぐな破壊心しかないです。勿論――全てが終わった後の覚悟も、です」


 全てが終わった後の覚悟。

 カズマはジャスティスのパイロットだ。

 当然、カズマのジャスティスも対象に入っている。

 カズマ自身もジャスティスの関係者となる。

 つまり――自らの命ごと、ジャスティスを破壊するという覚悟。


「そうか。ならばいい」


 クロードは頷く。

 彼への短い応答でよく分かった。


 カズマは


 もう少し冷静に頭を働かせればとある事実が露呈するはずだ。


 ――結果的にカズマがコズエを殺したということを。


 しかし彼は「コズエを殺された」と口にした。

 その点がまだ自覚していない部分である以上、彼は今までのような通常な状態であるとはいえない。

 むしろ戦闘以外の時に冷静な思考を回すことが出来ることになったのは良い方向になったのではないか――そうクロードは考え、「ならばいい」と回答したのだ。

 クロード自身は戦闘に対して熱量が足りない。

 相手をあまりにも圧倒してしまうからだ。

 それは自覚している。

 冷静という意味でそれはいいかもしれないが、味方の士気に関わる。

 だが、カズマがこうして熱量を持つ要素を継続させる、と言っているのだ。

 このままであれば問題ない。

 そう判断した。


(しかし……)


 クロードは彼の様子を見て、感じるものがあった。

 復讐に捕らわれ、真っ直ぐに進み、自分の行動を省みる。


(幸か不幸か、カズマの奴――な)


 まあ確実に不幸だよな――と思いながらそれを口には出さず、クロードはカズマに問いの言葉を投げる。


「それよりどうした? 何か俺だけに伝えたいことがあるのか?」

「ええ。先のライトウの話――アレインが殺害された時の話で、幾つか僕の行動の説明をしておくべきかと」

「何だ、そのことか」


 正直、クロードはそんなことはどうでもいい、と考えていた。

 カズマの行動と陸軍元帥のコンテニューの会話。

 ライトウは「不明だ」と言っていたが、クロードは察していた。

 だが、敢えてここで知っていることを告げてモチベーションを下げても仕様がない。


(それに……俺の考えが間違っている場合もあるしな。俺は決して頭がいいわけじゃないから、思い込みをしないようにしないと)


「話してくれ。お前の考えも含め」


 クロードはカズマの言葉に耳を傾ける体勢を整える。

 カズマは頷き、口を開く。


「あの時、二体のジャスティスがいたことは話しましたね」

「ああ。報告だと緑色のジャスティスだったな」

「その緑色のジャスティスですが、直感ですが普通のジャスティスと色以外にも異なっていると感じましたので、深追いを止めました」

「それは正しい判断だ。でなくては――アレインが捕まった理由が付かないからな」

「やはりそう思いますよね。普通のジャスティスなんかにどれだけ不覚を取ったとしてもアレインが捕まるはずがないと思っていました。だから嫌な予感がしたんですよ」


 緑色のジャスティス。

 きっと通常の二足歩行型ロボットではないことは予想が付いた。


「本当はある程度戦闘した上で見いだせればよかったのですが……」

「戦闘自体をさせることが相手の目的――そう悟ったんだな」

「っ、そうです。その通りです」


 前のめり気味でカズマは頷く。


「後で説明しようと思いましたが、陸軍元帥のコンテニューがその場に現れた理由が、それだと思ったのです」

「戦闘させることが目的……故にアレインを人質に取り、目の前で殺害せしめた」

「はい。そうであれば、ガエル国ハーレイ領を奪い返しに来たわけではない、というあちらの言葉にも納得できます」

「では、どうして戦闘させたかったのか? それが主題だな」

「はい。既に分かっているでしょうが、目的は次の通りでしょう」


 カズマはクロードに訂正する暇を与える間もなく、私見を述べる。


「『正義の破壊者』を

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