第173話 苦心 09
◆
自室から退室したクロードはどこに行ったか。
安易に外にも出られない。
かといってあれだけ雰囲気を悪くしておいて自室に舞い戻る訳にもいかない。
一時間はどこか別の場所に行かないといけない。
考えた末、彼が現在居る場所は――アレインの部屋だった。
女性の部屋にも関わらず質素な部屋で、ベッドやタンスなどの日常品の他には簡易的な丸テーブルが真ん中に置いてあるのみだ。
アレインらしい部屋だな、と思いながらもその持ち主がいないことに、少し寂寥感が湧く。
活発な少女は、もうこの部屋には戻ってこない。
そんな寂しさが溢れる部屋の中央部に立って、クロードはポツリと言葉を落とす。
「……失敗したな」
彼は後悔していた。
それはアレインの部屋を選んだからではない。
ましてや、アレインを死なせたことでもなかった。
その言葉は、先程のライトウへの言動に対してだ。
「もう少し、優しい言葉にすべきだったのか……いや、でもカズマがコズエを想起させて暴走しても困るから、あそこで突き放す選択肢をするしかなかった。とはいえ、もっと言葉を選ぶべきだったか……」
この言葉の通り。
クロードはカズマが正気に戻ったなどと思っていなかった。
ただ単にライトウは理性を持った行動をしてほしいと思った為に、厳しい言葉を掛けただけだった。
カズマは復讐を前への推進力にしていた。
だがライトウはこのままいけば、復讐がただの暴走になるのは間違いない。
だから止めるしかなかった。
「……考え直さなくてはいけないな」
クロードは目を瞑る。
次に鼻から大きく息を吸い込み、口から吐き出す。
この間も目は瞑ったままだ。
これらの動作を数分の間、繰り返す。
その逡巡の後に、彼は言葉を発する。
「俺は――考えが甘い」
ミューズの前でも呟いた言葉。
友人の死に泣き叫ぶ彼女の横で、クロードはずっと考えていた。
ジャスティス。
二足歩行型ロボット。
母を殺された恨みからそのロボットに集中させていたが、結局、アレインはジャスティス以外の存在に殺害された。
捕らわれたのはジャスティスによってかもしれないが、それでも、手を下したのが人間であるということを改めて思い知った。
ジャスティスに関係する全てを破壊する。
その目的はぶれない。
ぶれてはいけない。
だが、アレインの死は悲しみ以外にも、クロードに一つの疑問を浮かび上がらせることとなった。
それは――
「――それだけでいいのか?」
そう問いの言葉を口にした所で、
――コンコン。
扉をノックする音が聞こえた。
「……誰だ?」
クロードは声を低くして問う。
ここはアレインの部屋だ。本来ならば誰もいるはずがない。
にも関わらず、ノックという入室許可を促す動作を行った者がいる。
つまり――ここにクロードがいると予測した者がいるということだ。
ライトウ、カズマ、ミューズ。
コテージにいる三人の中でそんなことを出来る人物は――いないはずだ。
通常でなければ。
「僕です。カズマです」
「……そういうこと、か」
クロードは悟った。
通常の方に思考を回せるようになっている――ジャスティスへの復讐以外にも思考を回せるようになっている、ということだ。
この時、カズマが妹の復讐心のみで動いていた時とは異なっていることに、クロードは初めて気が付いたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます