第170話 苦心 06
◆
クロードの部屋に残されたのは二人。
カズマ。
ミューズ。
これだけ悪い雰囲気の中、残されてしまった二人。
数秒の静寂が駆け巡る。
やがて、
「……ねえカズマ」
ちらと扉の方に視線を向けてから、ミューズが頬杖を付いて問い掛ける。
その表情は、少し苦笑気味であった。
「あんた、実はもう正気になっているっすよね?」
「……言い方がひどいね、ミューズは」
はあ、と大きく息を吐くカズマ。
彼も困ったように眉を下げた。
「人の振り見て我が振り直せ――どこの国の言葉か知らないけど、正にその通りだねって思ったよ」
「やっぱり、今回のライトウのを見て、自分の現状を嫌でも認識した――ってところっすね」
「ああ。自分で自分を客観的に見られないよね」
大きく息を吐いて、カズマは椅子に寄り掛かる。
「最初は本当に狂っていたよ。もうコズエがいないこの世の中なんてどうでもいい、ってね。だから非情にもなったし、判断に人情も無くした。まあ、でも変わっていないけれどね、根本的には」
「そんなことないっすよ。前の時と違ったっすよ。あたしには分かるっすよ」
にひひ、とミューズは歯を見せる。
「さっきのライトウの対応だってそうじゃないっすか」
ライトウへの対応。
冷たく突き放したかのように見えた。
「どうでもよかったら適当な人に任せて一緒にいる必要なんかないじゃないっすか。でも一緒にいたってことは心配だったんすよね、ライトウのこと?」
「……僕と同じだったからね、このままじゃ。だからこそ自分で気が付けたんだけどね」
カズマは天井に視線を移す。
「ライトウの心は、今、アレインのことでいっぱいだ。コズエでいっぱいだった僕と同じで、その内自暴自棄になって一人でルード国に殴り込みに行くかもしれない。僕は力が無かったから行かなかったけれど、ライトウにはその力がある」
「確かにそうっすね……ライトウは危険っすね」
「それに僕の時は密かに止めてくれていた人がいたからね」
カズマは天井からミューズへと視線を移す。
「何だかんだいって僕のジャスティスのメンテナンス時間を多めに設定していたんだよね、誰かさんの目が届く間には」
「……何のことっすかね?」
「ありがとう」
カズマが柔らかく微笑む。
するとミューズの頬に赤みが増す。
「だ、だから何のことっすか!? あたしは何も知らないっすよ!?」
「うん。気のせいならいいんだ」
「そう、気のせいっすよ! 勘違いっすよ!」
ミューズは唇を尖らせながら、自ら付けているウサギの髪飾りをしきりに触る。
カズマの言う通り、ミューズはことあるごとにジャスティスのメンテナンスや構造解析と称して自由に動かせないようにしていたのだ。
全ては彼が勝手に乗って行って暴走しないように。
カズマの為だった。
「……」
再び静寂が場に戻ってくる。
相も変わらず気まずい沈黙だが、今度の沈黙は先程のモノとは全然違った。
だからだろう。
雰囲気が許してしまった。
ずっと聞きたかったことを、思わずミューズは聞いてしまった。
「……カズマ。ひどいこと聞いてもいいっすか?」
「ああ、いいよ」
「コズエの遺体って、結局どうしたっすか?」
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