第169話 苦心 05
◆
――よくその言葉をカズマの前で口に出来たな。
クロードの言葉はライトウに突き刺さる。
彼を冷静に戻すのには十分な一言だった。
「俺は……」
今まで何をしてきたのだろう。
今までというのは、アレインが殺されてからここに来るまでだ。
カズマに一般の所属員とは隔離された。
あれからここまで、カズマ以外とはほとんど会っていない。
故にカズマに感情をぶつけた。
泣いて。
喚いて。
叫んで。
問うて。
乞うて。
罵倒して。
それでもカズマは答えなかった。
ただひたすら、ライトウの傍にいた。
時折、他の所属員に指示を出していたが、それでも移動中も含めてほとんどがライトウの傍にいた。
その間、ずっとライトウはカズマにぶつけていた。
妹を失って同じ――いや、それ以上の苦しみを味わっていたカズマに。
それはそうだ。
コズエを失った時、ライトウは何をした?
何もしなかった。
何も出来なかった。
なのに、アレインの時には反応が違う。
そんな相手に対し、仲間だから弔おうと、特別に言い始めた。
傍から見れば正にクロードの言葉通りだ。
――よくその言葉をカズマの前で口に出来たな。
「カズマ……俺は……」
「あ、言っておくけど、謝る必要はないよ」
にっこりとカズマは微笑む。
横にいる少年のその笑顔に、ライトウは安心をするどころか、言い得ぬ不安感の方が強かった。
これだけ言われて、あれだけの仕打ちを受けて、どうして笑顔でいられるのか。
その不安感は、次の言葉で確定的となった。
「ライトウの言葉なんて、何にも感じていなかったから」
「……カズマ?」
ミューズが眉尻を下げてカズマの名を呼ぶ。
相も変わらず笑顔を崩さず、そこに居続けていた。
「ライトウが何を言おうが、結局は何も変わらないからね。そんな意味のないことをしていた労力にお疲れ様としか言いようがないね」
「……っ」
ライトウは自分の腹に鋭いものが刺さったかのような、じくりとした痛みが走る。
自分の中でほんの少しだけあった。
カズマは優しさで、自分の傍にいてくれたのだと。
そんな解釈が。
――甘え過ぎていた。
ただ単に迷惑だから隔離しただけだ。
他のメンバーの士気を下げるから、見張っていただけ。
そこに感情はない。
当たり前だ。
カズマはルード国への復讐のために全てを捨て去り、憎きジャスティスに乗っているのだから。
そんなことすら頭から抜けていた。
結局はそうだ。
ライトウもアレイン以外に見えていなかったのだ。
カズマのことも。
あまりにも自分勝手すぎた。
「……すまない。ちょっと一人で考えさせてくれ」
ライトウは腰を上げ、クロードの部屋から退室する。
その際、誰からも反応は無かったと思われるくらい静かだった。
――失望した。
しかし、それはカズマやミューズに対してではない。
退室するまでの間にカズマにもミューズにも視線を向けることが出来なかった自分に対してだ。
自分の矮小さに嫌になる。
一度頭を冷やして考えるべきだ。
――自分のこと以外も。
(考えられるか分からないけど、な)
脳内のみで自嘲して惨めな気持ちのまま、ライトウは自室へと向かって行った。
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