第168話 苦心 04

     ◆



「――その後にこうしてクロード達と合流した。以上だ」


 ライトウは目を伏せた。

 語った内容は、所々詰まっており、非情に苦しそうに喋っていた。

 故にクロードは理解した。


 カズマ。

 彼の下した判断に、ライトウは全く納得がいっていないと。


「状況はよく分かった。ありがとう、ライトウ」

「……」


 返事はない。

 無理はないだろう。

 思い出すだけでも辛かったはずだ。

 だからこそ敢えてライトウに言わせたのだが。


 彼には狂ってしまっては困る。

 現状を正しく認識して前に進んでもらう必要がある。

 しかしそうするためには今回、とある弊害がある。


 何故カズマはあっさりと引いたのか?

 しかもライトウの話した内容通りであれば、唐突に冷静に事を運んだことになる。


「――カズマ。ライトウを疑っている訳ではないが、先の話に不足や訂正があれば言ってほしい」

「いえ、特にそのようなものはないです」


 カズマはきっぱりとそう言い放つ。

 ならばますます混迷を極める。

 理由を考えなくては理解出来ない。

 ――そうクロードが思考を燻らせようとした時。


「……やっぱり駄目だ! なあ、クロード。お願いがある!」


 ライトウが先程よりも少々張りのある声を出し、頭を下げながら懇願する。


「ハーレイ領に俺だけでいいからもう一度行かせてくれないか!?」


(――ああ、そういうことか)


 クロードは悟った。

 そして、スイッチを切り替えた。


「目的は?」

「アレインの……遺体だけでも、きちんと埋葬してあげたくて……」


?」


「……何の、為に……?」


 信じられないといった表情で、ライトウはクロードを見る。

 彼の揺れているその瞳を見返して、クロードは質問を続ける。


「ルード国の面々が残っているであろう戦場に一人で行って、その成果がアレインの死体一つ、か。――何の為に行くんだ?」

「そんなの! 俺達の仲間だったからに決まっているだろう!」


 激高したライトウは足を大きく踏み鳴らす。

 まるでコテージ全体が揺れたかのような衝撃だ。いや、実際に揺れたのだろう。

 それが彼の怒りの込めた抗議の大きさの証となっていた、


「一緒に立ち上げてここまで来た彼女……俺達にとっては施設からずっと生き残って生きていた子なんだ! その遺体をきちんと弔ってやるのは当然だろう!?」

「遺体をきちんと弔ってやるのは当然、か。ふむ」


 一方、クロードは顎に手を当てて静かに問う。


「ではライトウ――?」

「……えっ?」

「当然、仲間なんだから全員分拾ってくるんだろ? そして丁寧に一人一人弔うんだろ? 何が違うんだ? 幹部だから特別だとでも言いたいのか?」

「……それは……」

「どれだけ掛かるのだろうな、弔っているだけで先に進まないぞ。そしてそれを回収する為にどれだけの犠牲者が出るのだろうな。――と、嫌味のように言っても仕方がないな。俺の話すら今は受け入れられないだろう」


 クロードは立ち上がり、俯いているライトウの横まで移動する。


「俺はこれから一時間程度席を外す。その間に冷静になれ。――だが、この言葉だけは残してやろう、ライトウ」


 彼の肩を叩く。


、と」


「ッ!」


 ライトウの肩が跳ね上がる。

 同時に、カズマの眉が少し下がった様子がクロードの目の端に映った。


 それには触れはせず、クロードは部屋から退室して行った。

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