外伝 首都 03
少年は極めて冷静だった。
怒りを押し殺している様子を全く見せず、笑顔というポーカーフェースで自分の心を隠している。
キングスレイは思った。
この少年は末恐ろしい。
――ここで殺すべきか?
思わず腰の刀に手を掛ける。
もしこの少年が泣き叫んだり、逆に罵倒してきたりしたら叩き切ろうと思っていた。
つまらないただの少年だ。
何の価値もない。
ジャスティスを動かして他の奴らを倒したのも偶然だろう、と。
だが少年は正解を選んだ。
キングスレイと対等に向き合うという選択肢を。
「……はあ、やっとですか」
少年が深い溜め息を吐く。
ここでこの少年の呟いた言葉は一体何なのか。どこに向けた言葉なのか。
キングスレイには理解出来なかった。
「……っ」
キングスレイは心の中で驚きを隠せなかった。
思ってしまった。
この少年を生かすべきではない。
だけど――生かしてみたら面白い、と。
「はーっはっはっは!」
大口を開けて笑い声を放ち、キングスレイは腰に掛けた手を離す。
あまりの唐突さにセイレンも目を丸くしている。
しかし――少年の顔は変わらず。
笑顔のままだ。
「少年。面白い。この私を恨んでいるか?」
「ええ。恨んでいますとも」
「だったら強くなれ。私を――いや、俺を殺せるくらいにな」
キングスレイは決めた。
総帥に付いてからしばらく、キングスレイに戦闘力で勝る人物など現れていなかった。
この少年ならば、キングスレイを超える存在になり得るかもしれない。
――だが、その座をはいそれと渡すつもりもない。
キングスレイは更なる高みへと望みたい。
その為には刺激が欲しかった。
ジャスティスだってその刺激の一つだった。
「セイレン、礼を言う。面白い存在を連れてきてくれたな」
「んふー、褒めても何も出ないよー。代わりにジャスティスの予算増やしてよー。今回のでこの子の乗っていた一機以外は使い物にならなくなっちゃってさー」
「よかろう。来年に実用化できるようにすることだな」
「んー、分かったー」
「それと、だ」
と、そこでキングスレイはコンテニューに近づく。
一歩。
また一歩。
そして――
「お前は殺さない。むしろ俺を殺しに来い。武力的にも――政治的にも、な」
コンテニューの頭を撫でた。
くしゃくしゃと。
多少乱暴な様子で。
「……貴方の思考は全く読めませんでしたよ」
「お前にそのままその言葉を返すぞ」
はーっはっは、と豪快に笑うキングスレイ。
既に彼の中ではコンテニューを殺すつもりなどなかった。
例えコンテニューが恨みを持っていたとしても、それを糧に反逆を企てるのならば、真正面から受けてやろうと思っていた。
キングスレイは感じ取っていた。
彼の中の復讐心は並大抵のものではないことを。
そして何より――彼が浅慮ではないことを。
故に、むやみやたらと襲ってこないことは分かっていた。
「戦場で功績を上げれば昇格もさせるぞ。つまらない妨害要素もないようにしてやる。だから思う存分、俺を追い越す様に精進しろ。金銭も支援してやろう」
「……今の僕では、貴方には勝てないですからね」
スッ、と。
頭に置かれたキングスレイの手を小さく首を横に振ることで払い、コンテニューは笑顔を引っ込める。
今度は逆に大きく息を吐いて、肩を竦める。
「分かりました。それまでは戦場でルード国の忠実な戦士として戦いましょう。戦闘に手を抜かずに結果的にルード国に都合の良いことになってもいいでしょう。貴方を殺すためには他国どころか、他人なんてどうでもいいですから」
言い切る。
コンテニューはあっさりと言い切る。
「自分だけが良ければどうでもいいです。そんなことを心配できるほど僕は大人ではないですから」
吐き捨てる。
コンテニューはばっさりと吐き捨てる。
「じゃあこれ以上いても仕方ないので僕は帰ります。あ、帰る場所がないので、住居とお金と戸籍だけお願いしますね。散歩がてらふらふらと街中でも見学していますので、準備出来たら適当に見つけて声を掛けてください。では」
一つ頭を下げ、コンテニューは退室していった。
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