第150話 空戦 08
◆
その言葉が耳に入ってきた次の瞬間、ヨモツは相手機がこちらに向かってくるのを視認した。
刀を振りかぶってきた相手の武器を、自分の剣で受け止める。
武器同士にほとんど差はない。
剣も刀も欠けることもなく、お互い反動で若干下がる。
(――これはどうだ!?)
ヨモツは機体を下に急激に移動させる。
空中戦と地上戦の一つの違いとして、下方からの攻撃が増えるということがある。
左右と上部は空間があるために地上でも認識は出来るが、下は普段攻撃時に意識が向かない。
故に対処が難しい。
避けようと思っても左右に動いたり、足で受けたりしてしまうのが一般的である。それは地上での戦いが慣れている者ほどそうしがちではあるが、しかしその対処をしてしまうと距離がほとんど取れないために攻撃を受けてしまう可能性が高い。
そのような状況の中。
相手機は――上昇した。
(これも駄目かっ!?)
空中戦の回避方法は、攻撃の前行動の機体の動きに対して逆方向に動くこと。
なので相手の対処は大正解であった。
と。
距離が少し離れたと思ったら、相手機は機体の上半身を完全に下に――ひっくり返るような形になったと思うと――急激に下降してきた。
「マジかよっ!?」
空中戦での下降はかなり恐怖心が煽られる。
だが相手は躊躇なくこちらへと――真下へと機体の頭を向けて降下してきた。
「ありえねえっつーのっ!?」
下降しながら攻撃してくる相手の刃を、機体を回転させながら衝撃を受け流す。
くるりと一回転し、何とか頭を上に持ってくる。
――しかし。
「どこだ!?」
相手の姿を見失う。
目の前の視点のどこにもいない。
「っ!」
咄嗟にヨモツは機体を前方に急発進させる。
数秒後、ヒュン、という背部に何かが通るのを感じた。
振り向きながら上部を見ると、相手機がそこに悠然とした様子で存在していた。
つまり、相手は下方から勢いよく攻撃を仕掛けたということだった。
「あぶねえな、おい!」
恐らく下を見ながらであったら避けようが無かったであろう。何も見ずに前方に全速力で発進させたことが功を奏したようだ。
しかし相手の攻撃はここで終わらない。
すぐに上部から再びこちらへと向かってくる。
「ぐ、ぬううううううううう!」
地面を背にして相手の攻撃を受ける。
一撃、二撃、三撃――
相手の雨あられの攻撃を受ける。
刀の切っ先に注視しないと受けきれない。
集中して裁く。
だけど、受けているだけではない。
「ぬううん!」
受け戻し、その勢いで上へと移動する。
相手もさながら、移動するヨモツのジャスティスに合わせて機体を回転させ、背を見せないようにする。
今度はこちらが上になって攻撃する。
相手も攻撃を上手く受け流してくる。
「……って、うぉ!」
更にどんどん機体を気付かぬ範囲で微小に身体を起こしてきて、いつの間にか頭が上を向いた状態で対峙していた。
ギン。
ギィン。
金属がぶつかり合う鈍い音が響く。
どちらも決定打を持たぬまま、一分ほど経過した。
故にどちらの機体にも異常はなかった。
――ないように見えた。
(――そろそろだな)
鍔迫り合いをしながら、ヨモツは口の端を歪める。
そして力で相手を押し出した後、急激に上昇を始める。
当然の如く、相手機も追ってくる。
――だが。
『なっ!』
唐突に、相手の焦った声が聞こえて来た。
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