第145話 空戦 03

    ◆




 カズマが東側から突撃したと同時に、他方向から三台のジャスティスが飛び出した。

 ここに来るまでに密かに調達したジャスティスだ。

 あまり多すぎると相手に察知されるのでここら辺が限度であろう、とカズマが判断した台数であった。今まで破壊していたのを確保するのは多少骨が折れたが、アレインとライトウのおかげで何とか確保できた。

 それが四方から襲ってくるのだ。

 相手は虚を突かれるだろう。


(――ま、あまり期待はしていないけれど)


 カズマが思った通り。

 最初の襲撃で破壊できたジャスティスは六体の内の二体だけだった。

 カズマ以外の味方ジャスティスは相手の防御に阻まれており、破壊できた二体はカズマが操作したジャスティスの手によるモノと、ライトウが斬り捨てたモノだった。

 でもそれは仕方がない。

 こちらのパイロットはただの命知らずの志願者だけで、実際に鍛えられた相手パイロットとは経験値が段違いに違うのだから。


『すまんカズマ! 可翔翼ユニットの接続部だと思われる所まで斬ってしまった!』


 インカム越しにライトウの申し訳なさそうな声が聞こえた。


「気にしなくていいですよ。こちらは本体だけ破壊できたので使えそうです。――ジャスティス部隊の方一人、僕の所に来てください。後の方は引き続き交戦を続けてください。ライトウ、アレインは作戦通りに」


 了解、という言葉が続き、一体の味方ジャスティスがこちらに向かってくる。

 ライトウは抑え込んでいる二体の内の一体に向かって走り出す。

 同時に――アレインも飛び出してくる。

 アレインも素早い動作で抑え込んでいる残る一体の方へと向かっていく。

 彼女はブラフだ。

 彼女自体にジャスティスを破壊する力はない。

 だがライトウよりも速く戦場を駆ける姿に、同等の破壊能力があると錯覚させることが出来る。

 そうなれば彼らの行動は予測できる。

 まずは残った二機はライトウとアレインに攻撃を向けるだろう。


(だけど――


 故に当たるはずもない。

 彼らの身体能力は、来ることが分かっている攻撃など容易に読み切ることが可能だ。


 その間に、アレインが味方ジャスティスが抑え込んでいる内の一体のジャスティスの足元まで辿り着く。

 生身の肉体なのに相手は焦るであろう。

 そうなれば攻撃するか?

 通常のジャスティスであれば彼女をひき殺そうと動くかもしれない。

 だが目の前にいるのは空軍ジャスティス――可翔翼ユニットを持った存在だ。

 そんな彼らが最初に行き着く思考は――人の辿り着かない場所まで行くこと。

 つまり空だ。


 彼らは可翔翼ユニットを起動させ、巨体を浮上させる。

 そうすれば強制的に、少なくともアレインに対してだけは距離を取ることが出来る。


(――そこが狙い目だ)


 ――ドゴン。

 大空に向かうべく浮上を開始した数機のジャスティスのボディが突然爆発した。

 正確には、ボディ表面に爆発が走った――という表現の方が正しいだろう。

 ジャスティスのボディが破損している訳ではない。ただ一機のジャスティスの可翔翼ユニットが煙を上げており徐々に高度を下げているのが見えた。

 そこをライトウは見逃さなかった。


『斬り捨て御免』


 一閃。

 ライトウが落ちてきたジャスティスを刀で真っ二つにした。

 爆発など何も起きない。

 ただのガラクタに成り果てるだけ。


 これで六体の内、三体のジャスティスを撃破できた。

 ここまでは作戦通りだが、上出来なくらいだ。


 まず奇襲を仕掛ける。

 次に生身の二人が援護を掛け、空へと飛び立たせる。

 そこを離れた所にある大砲で一撃を加える。

 威力のある大砲は単純直線放出の為、森の中から狙えば斜線上に木がある故に邪魔になってしまい、反対に木が無い所は言い換えれば相手から見える位置になってしまう。

 だからこそ、浮上させたのだ。

 木が邪魔にならない空中に移動させるために。


(まあ、半分は賭けだったけれども)


 作戦立案者のカズマは冷静に振り返る。

 この作戦には一つ、不確定要素があった。

 それは、空軍ジャスティスが可翔翼ユニットを起動させる際の初速についてだ。

 もし可翔翼ユニットが初速からかなりの速度で空中に浮かび上がる仕様であったら、いくら大砲でも狙いが定められない。初速がゆっくりであるが故に当てられるのだ。大砲の射程距離はそんなに短くはないが、かといって重力にどこまでも逆らえるわけではない。

 ただ、その可能性は低いと睨んでいた。

 理由は、急激な移動は中のパイロットにも影響する為だ。あれだけの機体に気圧を維持する機能はあるかもしれないが、急激な浮上に伴う衝撃に耐えうる構造になっているとは思えない。

 結果、読み通りの展開になった。

 そしてそれは、カズマにとっての安心材料にもなった。


 と、その時だった。


『ユニットがセットされました。前方からオプションコントローラが出現いたします。ご注意ください』


 ガシャン! と音を立てて前方から何種類かのスイッチがあるパネルが出てきた。

 配置的に左にある二つのボタンが始動と停止、右にある三×三の計九つのボタンは恐らくは操作盤になっているのであろう。


『カズマさん、可翔翼ユニットのセット終わりました!』

「……ありがとうございます」


 もう知っている、とは言わなかった。

 カズマのジャスティスはジャアハン国で奪った時のモノだが、それにも可翔翼ユニットが接続できたのは、ある意味予想通りであった。ミューズもそう言っていたし。

 しかし、操作盤は明らかに可翔翼ユニット専用ではない。専用にしていないのはきっとコントローラに汎用性を持たせる為であろう。知らないがもしかすると他のユニットも接続できるように最初から設計しているのかもしれない。

 しかし、操作盤が中央にあるとはいえ、左右にあって両手で扱わなくてはならない通常の操縦桿を握った状態では操作できないという欠点がある。


(もしかすると空軍ジャスティスは、その点を専用化している機体なのかもしれないな)


 別画面で高度計が示されたりとか、操縦桿にボタンが追加されたりとかしておらず、操作盤だけしか出てきていないことがハンデになってしまっているのだろう。

 でも関係ない。

 カズマは可翔翼ユニットを手に入れた。


「ここからは――僕の役目だ!」


 目の前のスイッチを押す。

 すると背部から始動音が鳴り響き、機体が徐々に浮かび上がる感覚を得る。

 目の前の景色がどんどん高くなっているのが分かる。


(変な感覚ですね。だけど……不思議と分かるもんですね、色々と)


 ――分かる。

 彼は自分のその異常さが分かっていなかった。



 そしてこれから彼はその異常さを――更に見せつけることとなる。

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