空戦
第143話 空戦 01
ガエル国ハーレイ領。
外れの荒野。
森林が途切れ、ぽっかりと空いた空間。
そこに、漆黒に沈むジャスティスが六台待機していた。
しかし、それらのジャスティスは通常のジャスティスとは違った。
背部にかなり大きな翼なような銀色に光るモノが装着されている。
これが空軍ジャスティスの可翔翼ユニットである。
ジャスティスを支えるためであろうがこのユニットはかなり大きく、その代わりにジャスティスの巨体を自由自在に空中で駆けまわらせることが出来るだけのパワーがあってかなりのスピードで飛ぶ為、地上からなかなか落とせないというのが特徴である。
だがそれらの機構を持っているのはこの六体だけ――正確には可翔翼ユニットは六組しかないというのが他国からの見方だ。ルード国は度々否定しているが、何度も繰り返される出撃の際に最大六体しか出てこないことからも、ただのブラフであることは間違いないだろう。
更にもう一つ。
空軍ジャスティスが例え少なくとも、頻繁に出撃すればかなりの戦力となるはずだ。しかし何故か空軍ジャスティスが出撃する回数はかなり少ない。
以前はそのことについて、通常ジャスティスだけで対応出来ているので必要としていないのではないかと思われていたが、ジャスティスを破壊される存在――『正義の破壊者』が出てきても出撃回数が変わっていないことから、別の理由があるのではないかと推察されていた。
実際、ヨモツの姿は空中部隊としてはなく空軍元帥として、ジャスティス以外の飛行部隊の指揮を取っているのが目撃されているだけで、実際に空中部隊が稼働している所を目撃されているわけではない。
(まあ、コストでしょうけどね)
その理由について、カズマはそう捉えていた。
可翔翼ユニットの稼働には膨大なコストが掛かるため、出撃回数を最小限にしていると思われる。故に重要な局面でしか出撃していないのだ。
そしてここは、重要な局面だと考えられているということだ。
(昨日のアレインの情報が有用でしたね。正直、あれがなければ、クロードにどう言い訳をするかが大変でしたから)
そう口の端を上げるカズマ。
彼がいるのはジャスティスのコクピット内。
そのジャスティス自体は、あちらからは見えないがこちらからは良く見えるといった、近くの森の影に巧妙に隠れていた。
彼が予測した通りの展開になっている。
この場所に空軍ジャスティスが来ることも。
この位置からならばよく見えることも。
空軍ジャスティスは可翔翼ユニットの大きさという特徴上、かなり開けた場所ではないと降りて来られないという見た目からの物理的障害があるということからの推察ではあった。
ただ一つだけ異なっていたのは、相手のジャスティス六機全てが地上に降りていることだけだった。
(警戒のために一機くらいは空中に漂っているかと思ったけど……だったら頭上から見えない場所にジャスティスを置く必要もなかったですね。結果論ですが)
この彼らの不自然な行動から、カズマは悟った。
(――やはり罠でしたか)
明らかに彼らは挑発している。
ここまであからさまに隙があるように見せかけているのには何か理由があるはずだ。
その理由について。
カズマはある程度、悟っていた。
そこからどうしてくるかも。
(ま、関係ないですね、そんなの)
どうだっていい。
ジャスティスが破壊できればそれでいい。
相手が誰であろうと関係ない。
実際、ヨモツの機体がどれであるかは、外見だけでは分からなかった。
(ボス機だけ目立つようにするのってフィクションじゃよく見るけど、あれって狙われるだけだなって思っていたんですよね。――まあ、ブラッドは明らかに舐めてかかってきていた面もあるのでフィクション通りでしたが)
その点、ヨモツは違うと感じた。
豪快そうな見た目と喋り方とは裏腹に、慎重を期しているというのがひしひしと伝わってくる。
故にカズマも警戒を怠らない。
相手はこちらを――舐めてかかってきていないのだから。
それを認識し、カズマはインカムを口元に寄せる。
「――あと一分後に出撃します」
唐突とも思える出撃指示。
だがこれも予定通りだった。
カズマが行けると判断してから行く。
その指示通りに皆は動いている。
カズマがエースであり、司令塔なのだ。
そしてその少年は一分後、思考を止めた。
作戦は既に立てた。
指示もした。
後はただ一つだけ。
それだけをするだけだ。
それだけを考えればいい。
――いや。
考える必要すらない。
ただ突っ走るのみだ。
「これから――
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