番外編 聖夜 07

    ◆カズマ 


「さてミューズ、見なかったことにしてほしいか、それとも敢えて広めてほしいか。どっちの方が嫌かい?」

「すみません答えること自体を勘弁してほしいっすこのどSめ」


 店頭で顔を真っ赤にさせるミューズを、楽しげにカズマは攻めていた。

 謝る必要も恥ずかしがる必要も何もないのだが、彼女はぐぬぬと顔を歪ませている。

 ウサギの髪飾りを欲しがっているなんて可愛らしい、年相応の女性ではないか。


「いや、ちょっと幼いか……」

「もー! 何が言いたいんすか!?」

「ん? 言いたいことはないよ」

「いやなんか言えっす!」


 無茶言うなよ、と少し困った挙句、彼はこう口走る。


「えっと、その……可愛かったよ」

「はっ……?」

「普通の女の子だね、やっぱり。普段白衣でパソコンに向けているにやけ顔でとは違う表情だった」

「……微妙なんすけど、その言い方」


 少々頬を紅潮させながら唇を尖らせるミューズ。


(そんなに恥ずかしかったか、ウサギの髪飾りを買う所は。鼻歌もあったし、仕方ないとは思うけど)


 顎に手を当てて悩むカズマに、ミューズは居ても経ってもいられないといった様子で地団駄を踏む。


「っていうか何をしにきたっすか!? ここ女物のアクセサリ売り場っすよ!?」

「うん? 何って……そういえば買うの? そのアクセサリ」

「い、いや買わないっすよ!? これはただ単に見ていただけで、これ買っちゃうと手持ちからオーバーになっちゃうっすし、目的は別にあるっすし……」

「目的?」

「それはっすね……ってあたしが目的聞いていたのにどうして逆になっているっすか!?」

「あ、うん。そうだったね」


 カズマは一つ頷くと、


「僕は

「は?」

「ということで、そこらへんぶらぶらして帰るよ」

「今日のカズマはなんか色々つかめないっすよ……」

「いつもじゃないかい?」


 そううそぶきながら彼女に訊ねる。


「ミューズはどうする? なんなら一緒に回るかい?」

「うぇっ!? 一緒に!?」

「そんなに嫌かい?」

「嫌とかそういうんじゃなくってっすね、むしろ……いやいやいや! っていうかあたしはさっき言った通り、目的があるっすから……その一緒には……」


 言い難そうに口をもごもごとさせるミューズ。

 カズマは察した。

 何かカズマには一緒にいてほしくない――知られたくない用事があるのだ。


「ん、分かった。僕も寄る所があるから。じゃあまたコテージでね」

「あ、うん。またっす」


 カズマは彼女に背を向けてその場を去った。


 そして数分後、元の場所に戻ってくる。

 その場にミューズはいなかった。


「よし。――すみません」


 カズマは店員に声を掛け、あることを確かめる。

 問題ないことを確認した後、目的の物を購入する。


「……ふぅ」


 支払いを済ませて少し広い通りに出た後に、彼は小さく息を吐く。


「女子も同じことを考えている、ってことか」


 下着売り場や生理用品など女子特有のであればミューズは口にするはずだし、それをからかいの道具として利用するはずだ。

 そうでないのだからこの結論になる。

 その事実から見えたことに対し、カズマは思考を燻らせていた。

 また少し頭を悩ませることが出てきた。

 いや、正確には確定はしていないが、ほぼそうなるであることが分かった。


「さて……どうするのが正解だろう?」

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